ルサカは柔らかな白パンに齧りつきながら、大人しく話を聞いている。
大人しく、というより、食べるのが忙しくて口を挟むヒマがなかった。
「お腹すくよね。たくさん食べないと。たくさん食べたら、また交尾しようね」
タキアは無邪気にニコニコしながら、ルサカが一心不乱に食べ続けるのを眺めている。
確かに空腹だった。食べても食べても足りない。
考えられない量を食べているが、タキアはそれを笑顔で眺めているだけだ。
リーンとはとんでもない初対面になったけれど、今はそれどころではない。
ルサカはとにかく食べ続けないと、空腹で死にそうな気がしていた。
「……そういえば、しるしって、何?」
ふと、思い出してルサカは尋ねる。
交尾の最中も、リーンが来た時も、やたらとしるしの話をしていた。
「ん? ……ああ、しるしはね。誰とも交尾をした事がない人間が、竜と交尾すると、下腹に花みたいなアザができるんだ。しるしがついたら、竜との交尾が大好きになるから、さっきみたいに知らない竜……僕の兄さんとかにも反応しちゃうのが難点かなあ」
タキアは丁寧にハムとチーズを切り取って、ルサカの皿に載せる。
「しるしが付くと、もう人間とは交尾できないよ」
笑顔での爆弾発言だった。
「……え?」
思わずルサカは聞き返す。
「しるしがつくと、身体が変化する。雄でも雌でも、竜との交尾に適応した丈夫な身体になるよ。じゃないと、人間なんか弱いから、数回の交尾で死んじゃうしね」
「そ、それと人間と交尾できないのと、何の関係が……」
タキアは少し考え込む。
「んー。僕もわからない。でもどうせ竜の番人になったら、一生巣で過ごすだろうし。どの道、人間と交尾する機会なんかそんなにないんじゃないかな? ……ああ、でも番人をたくさん飼ってる巣だとアリなのかな……。でもそうなると、番人同士だから人じゃないしなあ……」
タキアは小さくうなりながら考え込む。
「……あと、番人て?」
「竜の巣に飼われてる人間の事だよ。家事や財産管理とか交尾とか、色々やってくれる人間を、番人てまとめて呼んでる」
竜の生態なんか知らなかった。
そんなにたくさんいる生き物ではないし、見た事もなかった。遠くの国の噂で聞くくらいで、まさか自分が竜の巣に連れてこられるなんて、思いもしなかった。
それに同じ男なのに。
ルサカはパンにかじりついたまま、固まっている。
「……もうお腹いっぱいになった? ……じゃあ、交尾しようか」
とにかくここ数日、タキアは交尾の事しか言わない。
交尾と食事と睡眠、これしかしていないといって過言ではない。
紅い花のしるしがついて数日は、ルサカはろくに食事もせずに交尾に夢中になっていたが、今は少しくらいの平常心なら持てる余裕が、出てきた。
「ま、まだ……」
慌ててがつがつとパンを齧り出す。
「年に二回発情期があるけど、その時は一週間くらい交尾しまくるかな。……他の時期もできるけど、やっぱり発情期が一番盛り上がるし、繁殖できるのはこの時期だけだしね」
竜のモラルはどうなっているのか。赤裸々に楽しそうに、タキアは語る。
「兄さんのところは、たくさん番人がいるんだけど、僕は今のところルサカだけでいいかな。……可愛いし、気持ちいいし、ルサカが大好きだし」
さらり、と大胆な事を口にする。
タキアの見た目こそ、ルサカより年上のお兄さんだが、中身は子供と大差ない。
おまけにゆるゆるの竜のモラルで生きている。
「人間と交尾したの初めてだけど、すごく楽しいし、気持ちいい。竜同士とはまた違っていいよね。兄さんが大きいハーレム持ってる理由がよくわかるなー」
まだ竜としては若いタキアは、人間で言うところの思春期。
もう頭の中は常に交尾の事で一杯だし、発情期ともなればそれは貪欲にもなるだろう。
またパンを齧っているルサカを抱き寄せて、その頬に口付ける。
「早くしよう。……ほら、ルサカ……」
パンを取り上げて、薄く開いたルサカの唇に口付け、舌を差し入れる。
「あ、あっ……」
少し間の抜けた声をあげて、ルサカは大人しく、唇を吸われる。
その間に、タキアはシャツ一枚で裸足のルサカの腿に手を這わせる。
促されて膝を開くと、タキアの手は迷わず、ルサカの内腿を這い上がり、足の付け根を撫でた。
「……下着、はいてないんだ。準備いいね」
くすっと笑って、ルサカを立ち上がらせる。
「ルサカ、シャツを捲って、見せてよ」
さすがに羞恥を覚えるのか、ルサカはシャツの裾を握って、戸惑いっている。
「ほら、足を開いて、捲って見せてよ。……そしたら、すぐいれてあげる」
すぐに、といわれて、ルサカは両足の奥が甘く痺れるのを感じた。
タキアのあの熱くて硬いものを想像しただけで、下腹が甘く痺れ、身体が溶け出しそうだった。
それを想像しただけで、我慢ができなくなる。
少し躊躇って、それから素直に椅子に座りなおす。
ぎゅっと目をつぶって、言われた通りに、足を広げ、シャツをたくしあげ、下腹の紅い花を晒す。
「……ルサカ、僕のを想像してた? ……すごいよ、カチカチになって濡れてる」
シャツを濡らして立ち上がっていたそれに、タキアが唇を寄せ、ぺろり、と舌先で舐めあげる。
ルサカは耐え切れずに白い咽喉を反らし、子猫のような啼き声を洩らした。
分かった事がある。
ルサカはせっせと客間を掃除しながら考える。
発情期のタキアは、とにかく挿入する事しか考えていない。
本能なのだろう、とにかく何はなくとも挿入したい、と考えているようで、ルサカが掃除していようが料理していようが食べていようが、すぐに交尾したがる。
竜がこんなに淫蕩で性欲が強い生き物だなんて、知らなかった。
しかもどうやら、本当に男女見境い無しらしい。
一応は、固体によっての好みの差はあるらしい。が、基本、竜は美しいものが大好きだ。
財宝も人間も、美しいものならなんだっていい。ひどい話である。
「ルサカ、ただいま」
いきなり背中から抱きしめられて、ルサカは驚きのあまり、手にしていたはたきを取り落とした。
「ひっ……!……びっくりした、心臓が止まるかと思った…!!」
息が止まるかと思った。
いつの間にかタキアは財宝集めから戻っていたようで、ルサカはほう、と深く息をつく。
「ごめん。もうルサカに会いたくて会いたくて仕方なかったんだ……」
言いながらタキアの手はルサカの身体を撫で回し、探っている。
本当になんて淫蕩な生き物だろう。
もうやる気まんまんだ。ルサカの下腹には、硬く熱く熟れたタキアが押し付けられている。
もう一週間が経過しているが、まだ発情期が続いていた。タキアは成人したての若い雄なので、長めなのかもしれない。
一週間交尾し続けた結果、少し、タキアの誘い文句がまともになった。
『会いたかった』とか言うようになった。発情期が始まったばかりの時はもう包み隠さず直球だった。
『早くいれたい』『ルサカの中にはいりたい』『我慢できない』『交尾しよう』
駄々っ子そのものだったのに、今はちょっとした駆け引きも覚えた。
もうひとつ、分かった事がある。
竜の発情のフェロモンなのか、それとも紅い花のしるしのせいなのか。
ルサカは発情期の竜に逆らえない。
竜の興奮につられるように、抱きしめられただけで、激しく興奮していく。
タキアに求められると、瞬時に早く貫かれたい、それしか考えられなくなるのだ。
「……ルサカ、早く脱いで」
完全にタキアの言いなりになる。
促されるままに、ズボンを脱ぎ、下着も脱ぐ。
シャツをたくし上げ、蜜を滲ませながらすでに熱く脈打っている自分のそれと、下腹の紅い花を見せる。
「……タ、タキアのも……見せてよ……」
もじもじと口ごもりながら、促す。タキアは小さく笑う。
「……いいよ」
タキアは椅子に座り、ズボンをくつろげる。
既に興奮し、硬くはりつめ立ち上がった異形のそれを見せ付ける。
「ルサカ、自分で入れるところを、見せてよ」
ルサカは素直に頷いて、歩み寄る。
片足を肘掛けにかけて、タキアを求めて紅く充血し、ひくひくと収縮を繰り返す蕾を、その異形の生殖器に押し当てる。
途端に、タキアに腰を掴まれ、止められてしまう。
「……ルサカ、可愛い。蕩けそうな顔してるね」
「あ、あっ…な、なんで」
腰を押さえつけられ、動けない。それでも焦れて、タキアの硬く膨れ上がったそれに、こすり付けるように腰を揺らしてしまう。
「……ほら、やらしい音がしてる」
タキアの吐息は熱く、それが更にルサカの興奮を煽り立てる。
焦れたルサカが腰を擦り付けるたびに、くちっ、と粘った音が響く。
「ルサカの、僕が欲しいって鳴いてるね……」
竜の精液は催淫効果でもあるのか、少し触れただけで、欲望が激しく膨れ上がる。
「タキア、意地悪しないで…っ…もう、……」
「もう? なに?」
発情期の最初の頃は、一秒も我慢できずにすぐにルサカを犯し、激しく突きあげていたのに、今ではこうだ。
興奮と快感を更に高める方法を覚えてしまった。
「……はやく、タキアが欲しい…っ…」
タキアが腰を掴んでいた手をゆっくりと離すと、ルサカは夢中で腰を沈めた。
「あっ…あああっ……!」
歓びの声をあげながら、一息に根元まで飲み込む。
「ふああ、あっ……あ、あ、タキア…っ…」
うっとりと蕩けた声をあげ、夢中で出し入れを始める。
硬く熱く膨れ上がった、竜の生殖器を、恍惚とした微笑を浮かべ、出し入れする。
そのたびに、熱く蕩けたルサカの中から、淫靡な粘った音が零れ落ちる。
「……く、はっ……ルサカの中、すご……熱くて蕩けそう…っ…」
たまらなくなったのか、タキアは繋がったままルサカを目の前のテーブルに押し付け、激しく突き上げ始める。
「あっ…あっあっ…!んう、くぅっ…!」
淫蕩なのは竜だけじゃない、竜の番人もだ。
ルサカは奥を抉られるたびに、甘く高く鳴く。その甘い声で、更に竜の興奮を誘う。
タキアはそのルサカに覆いかぶさり、荒く呼吸を繰り返す唇を舐める。
「ルサカ、可愛いね。……大好きだよ」
「タキア……っ…タキア、んぅ、は、あっ…!」
タキアの腰に足を絡め、淫らに腰を揺すりながら、ルサカは目を閉じる。
もう、きっと帰れない。
こんな快楽を知ってしまったら、帰れない。