まさに貪る、という言葉がふさわしいくらいに、ルサカはタキアにしがみついて離れなかった。
どっちが発情期かわからない。
ルサカの方が完全に発情した状態にしかみえなかった。
タキアの膝に乗って、声が嗄れるまで甘く鳴き、悲鳴のような喘ぎ声をあげ、淫らに腰を揺らし続けた。
おかげで、タキアは本能を心行くまで満たされて、巣に他の竜がいるストレスを忘れているようだった。
「……ルサカ、おはよう。身体は大丈夫?」
タキアの腕の中で、まだ寝ぼけているルサカのこめかみに口付けながら囁く。
「……おはよ…タキア……」
文字通り、享楽を貪ったルサカは、寝ぼけてはいるものの、激しい交尾の後の顔色の悪さはなかった。
そこは滋養飴がちゃんと仕事をしたようだ。
寝ぼけたままのルサカの、緩く開かれた唇に舌先を忍び込ませながら、抱いていた手を滑らせ、腿を撫でる。
そのまま膝を開かせて、足の付け根まで掌を這わせる。
明け方までタキアの異形のそれを飲み込み、快楽を貪り続けたルサカのそこは、タキアの残した体液を滴らせていた。
「……あ、んんっ……」
ルサカは細い声を洩らしながら、素直にタキアの指を迎え入れた。
指を入れただけで、くちゅっ、と派手な音が響く。
「すご……。ルサカ、まだとろとろだよ。……ほら」
軽くタキアが指で中を掻いただけで、粘った水音が響く。
ルサカは唇を震わせて、甘く融けた吐息を漏らした。
「……ルサカ、いい?」
タキアの指の甘さに、うっとりと目を伏せているルサカは聞こえているのかいないのか、曖昧に頷く。
指を抜き去り、タキアの残した体液を溢れさせるそこに、ゆっくりと押し入ると、ルサカの爪先がびくん、と跳ねた。
「あ、あっ…タキア、ふあ、あっ……!」
昨夜のような、発情しきった声ではなかった。
いつものルサカだ。
少し惜しいような、ほっとしたような。そんな複雑な気持ちになりながら、タキアは本能に従う。
ルサカの腰を抱いて、思うままに、揺すり上げ始める。
「あっあ! ……も、くぅ、ふ、あ……!」
タキアの背中に両手を回して、ルサカは甘えるように、肩口に頬を摺り寄せる。
可愛い。
タキアは余計に収まりがつかない。
ルサカの右の膝裏を掴んで開かせながら、更に腰を激しく打ちつけ始める。
タキアの硬く膨れ上がった生殖器が出し入れされるたびに、繋がったそこから泡立った体液が溢れ、伝い落ちた。
「タキア、だめ、いきそう、も、あう、く、ああっ…! くぅ、……!」
タキアのそれをきつく締め付けながら、ルサカは背を仰け反らせて達した。
蕩けきったルサカの内壁は、熱くきつくタキアを締め付けた。
タキアも思わず息を詰まらせながら、ルサカの中で昂ぶったそれを解放する。
「……は…っ……。……ルサカ……好きだよ……」
荒い息のまま、乱れて甘い吐息を漏らすルサカの唇に、唇を寄せ、囁く。
ルサカはゆっくりと目を開けて、少し恥ずかしそうに微笑む。
「……ぼくも。……好きだよ、タキア。……大好きだよ」
タキアはルサカの少しはにかんだような笑顔が、たまらなく好きだった。
この少し恥ずかしそうな照れたような、そんな表情のルサカは、胸が痛くなるくらい、可愛く、綺麗で、ほんの少し、えっちな雰囲気がある。
たった今、交尾したばかりだけれど、もっともっとしたくなる。
少々名残惜しく思いながらも、タキアはゆっくりとルサカの中から引き抜く。
引き抜いたとたんに、そこから大量の精液が溢れ、零れ落ちた。
「……あ、ふぁああっ…!」
その生々しい感触に、思わずルサカは声をあげる。
「ちょ、ルサカ……今の声はえっちすぎるよ……」
ちょっとその声は反則だ。竜を甘く誘う鳴き声そのものだった。
「……だ…って……こ、んなの……」
首筋まで赤く染めながら、ふるっと身震いする。
どろり、と溢れたそれはシーツに淫らな水溜まりを作った。
「……ご飯食べたらお風呂いこうか。……お風呂でまた、ね……」
ルサカを抱き寄せて口付けながら囁いたその時、ルサカががばっと顔を上げた。
「やば……! 忘れてた。……フェイ、どうしてるかな」
跳ね起きて床に投げ出していたシャツを羽織って数歩歩き出したところで、タキアに腕を掴まれて引き止められた。
「待った、ルサカ! そんな半裸であのちびのところに行く気?」
「え。……だって、泣いてるかもしれないし急いでいかないと」
「だめだよ! あいつは君の事が大好きなんだよ。素肌を見せるなんて、絶対だめだ!」
「……あんな子供なのに?」
「子供でも竜なんだよ! 小さくたって竜なの!」
タキアは癇癪を起こす寸前に見える。
これ以上怒らせて拗れさせたくないルサカは大人しく、繁殖期前に用意しておいたタオルを部屋の箪笥からひっぱりだして、身体を拭う。
「……匂いとか大丈夫かな」
ルサカは自分の腕に鼻を近付けて嗅いでみる。
「もう砂棗の花の匂いがぷんぷんしてる。……この匂いをあのちびに嗅がせたくないのに」
心行くまで交尾して機嫌が良くなっていたのに、またタキアの機嫌が下り坂になった。
また交尾で機嫌を取るしかない。ルサカは小さくため息をつく。
なんだか落ち着かない繁殖期になってしまった。
ルサカも気を使っているが、タキアだって中途半端にストレスを溜める状態になっていて、あまりいい事ではない。
不機嫌な顔のまま、ベッドの端に腰掛けているタキアに、ルサカは歩み寄る。
「……ご飯食べたら、お風呂いこう。……すぐ朝食の準備するから」
なんとか機嫌をとろうと、ルサカはタキアの膝の間に入って、タキアの頬に口付ける。
「……ちびのところに行く前に、見せて」
むっつりと膨れたまま、ぼそっとタキアが呟く。
「……? なにを?」
「僕がつけた竜のしるし」
今、ルサカはシャツを羽織っただけで、下着すらつけていない。
その状態で、竜のしるしを見せろ、というのは、タキアの意地悪にしか思えない。
そういえば初めて交尾したあの繁殖期の時も、同じようにそんな淫らな事をしていたが、あの時はタキアに好意を持っていなかったから、難易度が低かった。
好意を持ったとたんに恥ずかしくなるとか、思えば不思議だ。
それに、考えてみたらこんなにタキアの機嫌を取ろうとした事なんて、初めてだ。
ルサカは思わずため息をつく。
おずおずと、シャツの裾を摘んで、たくしあげる。
下腹の紅い花を晒すと、タキアはルサカの腰を両手で掴んで引き寄せ、その紅い花に唇を寄せる。
その紅い花弁に音を立てて吸い付き、口付ける。舌先でその紅い花弁を丁寧に舐め、甘く噛み付くと、思わずルサカの唇から、甘い吐息が零れ落ちた。
本当に、竜のやきもちは厄介だ。
急いで厨房側のルサカの部屋に向かうと、きゅっきゅっ、と悲しそうな鳴き声が聞こえる。
「フェイ…! ごめんね、ほっといて。お腹空いたよね、」
扉を開けると、フェイは真鍮の寝台の上で、丸くなって鳴いていた。
「……ごめんね、泣かせちゃったな……」
抱き起こして膝に乗せる。フェイの真っ赤な瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
きゅ、と短く鳴いて、ルサカの膝に鼻先を摺り寄せ、小さな前足でしがみつく。
タキアのような大人の竜でさえ、あれだけのさみしがりやだ。子供はもっとだろう。
目が覚めたらひとりぼっちで、もしかしたらルサカが来るずっと前から鳴いていたのかもしれない。
「よしよし……。今ご飯用意するから。……一緒に食べようね」
ルサカに抱かれて撫でられて、フェイは少し落ち着いてきたようだった。
フェイを抱いて厨房へ向かう。
ヨルも空腹を訴えにルサカを探していたようで、厨房の前で待ち構えていた。
「ヨル、このちびちゃんと遊んであげてくれるかな。……今、ご飯用意するから」
厨房の床にフェイを降ろすと、ヨルは任せろ、と言わんばかりにフェイに擦り寄る。
フェイの面倒をヨルに任せて、ルサカは慌ただしく食事の用意を始める。
タキアは繁殖期の間は、あまり食べない。主に消費するのはルサカだ。
とにかく食べ続けないと死ぬかもしれないし身体が動かないし頭も働かなくなる。
手早く作り置いていたものを切り分けて並べながら、ルサカはふと考える。
そういえば、繁殖期に子供が居る場合、竜と番人はどうやって子供の面倒を見ているんだろう?
「……他の巣なら、番人は何人か置いてるからね。手の空いてる番人が面倒を見たりするし、あと、子供を産んだ竜は、子供がある程度育つまでは発情しなくなる」
タキアは不機嫌にお茶を飲んでいる。
ルサカがフェイに掛かりきりなのが気に入らないのだ。
「父親も発情しなくなる事があるよ。……竜は繁殖力が弱いからね。やっと生まれた子供を育てる事に全神経を注ぐから、繁殖期にも発情しなくなる事がよくある」
フェイは無邪気にルサカの膝に乗って、小さな前足で器用に果物を持って齧っている。
ルサカも子供の面倒というより、犬猫の面倒をみている気分に近い。
「そういえばエルーさんのところも子供は一人って言ってたね。タキアは兄弟たくさんいたから、番人がいれば繁殖はそれほど問題じゃないのかと思ってた」
フェイに食べさせつつ自分の食事もしつつ、タキアの機嫌もとりつつで、ルサカは忙しい。
おとなしくて手が掛からない竜の子供でも忙しいのに、あんなに動き回る子供の面倒を見続ける人間の母親は偉大だと、つくづく感心している。
「僕らは全員母親が違うからね。……父さんも兄さんくらい大きなハーレムを持ってたし。……兄さんのところだって、子供は人間が三人くらいしか生まれていない。……竜の子はなかなか生まれないんだよ」
「子供がなかなか生まれないなら、フェイのお父さんもものすごく心配して探してるんじゃ?」
「……だと思うんだけど、全然連絡がこない。……どうなってるんだろ」
もうお腹がいっぱいになったのか、フェイはフォークを持つルサカの手にじゃれ始めた。
「……危ないよ、ちょっと待っててね」
素早くタキアがフェイを摘み上げて、床に降ろす。
「……タキア!」
「ヨル、ちびと遊んであげて。……中庭でひなたぼっこでもさせてやってよ」
本当におとなげない。
ヨルに子守を押し付けて追い払う気まんまんだ。
思わずルサカはため息を漏らす。
「フェイ、ヨルに遊んでもらってね。……あとでぼくも行くから」
フェイはルサカを見上げて、真っ赤な目でぱちぱちと瞬きをする。
ルサカが一緒にこない、とわかったのか、ルサカの足にしがみついてきゅっ、と鳴いてすがる。
こんな可愛いくすがられたら、ルサカだってほだされてしまう。元々動物好きで子供好きで、面倒見もいい。
そんなルサカにとって、竜の子供は凶悪な可愛さだ。
「…………」
タキアは無言でそのフェイを見つめている。
ルサカはフェイが何を言っているのかさっぱり分からないが、タキアは理解している。
タキアが不愉快に思うくらい、恐らく、ルサカに好意を示してすがっていると思われる。
ものすごい板ばさみだ。
タキアを放っておけば怒り出すだろうし、フェイをほうっておくとさみしがって泣くだろう。
繁殖期でさえなければ、タキアだってこんな子供相手に苛立ったりしないのに、本当にタイミングが悪すぎた。
「……フェイ、ごめんね。お風呂に行ってくるから、ヨルと遊んでてね。ちゃんとあとから行くから」
フェイはじっとルサカを見上げて、悲しそうに一声だけ、きゅっ、と鳴き声をあげると、すがっていたルサカの足から離れる。
ものすごい罪悪感だ。
これは早くフェイの父親を探さないと、ルサカの神経が持たない。
「……ルサカ」
ルサカを抱き寄せて、その肩に額を押し当てる。
「おとなげないって思ってる? ……子供に意地悪ばかりするって、嫌いになる? ……僕だってこんなに苛々したくない。……でも、ルサカが他の竜に優しくしてるなんて、耐えられないんだ。……見るのがつらい」
嫌いになるはずがない。
竜の本能が研ぎ澄まされ昂ぶって、タキアにもどうしようもない事は、よくわかっている。
「……ならないよ。ぼくも、どうしたらタキアがしんどくならないか、考えるから。……落ち込まないでよ」
タキアの燃えるように赤い髪に指を梳き入れて、撫でる。撫でながらその額に口付ける。
やっと安心したのか、タキアは顔を上げて少し笑う。
「……ルサカ、大好きだよ」
ルサカの唇に音を立てて口付ける。零れ落ちる吐息は熱くなって、切なげだった。
きゅっ! と甲高い鳴き声が響く。
フェイはまたルサカの足にしがみついて、きゅうきゅうと鳴き声をあげ始めた。
……これは厄介だ。
ルサカもやっと気付いた。
小さくても竜なんだ、とタキアが怒り出した理由がようやく分かった。
タキアだけじゃない。
竜は、みんな執着心が強い。
これは本当に厄介だし、板ばさみだし、身体が持たない。
また不機嫌に黙り込んだタキアを見上げて、ルサカは深い深いため息をついた。