竜の棲み処

#44 本当に罪深い

 フェイを無事に父親に返し、二人きりの生活に戻った。
 いざ、二人きりの生活に戻って、『誰に憚る事なく好きなだけ交尾出来ますよ』となったら、急になんだか恥ずかしいしいたたまれないのは何故なのか。
「……ちびを保護していて、ひとつだけいい事があったのだけは、認める」
 出迎えたルサカの唇に軽くキスをして、柔らかな舌先で軽く、その唇を舐める。
「……交尾する隙がないからなかなか出来なくて、ルサカに無理させないで済んだ。……それだけは、良かった事だ」
 確かにフェイのおかげで、多々邪魔が入っていた。それはタキアにとってはストレスになっていただろうけれど、ルサカの負担は格段に減る。
 タキアは名残惜しそうに触れていた唇を離して、ルサカの髪を撫でる。
「今すぐ交尾したいけど、埃っぽいから流してくる。……一緒にお風呂に入る?」
「……さっき入っちゃった」
 シメオンとフェイの親子を見送った後、タキアは何か思うところがあったのか、散歩と称して夕暮れまでどこかに行っていた。
 どこかに行くというより、気持ちを落ち着ける為にルトリッツの空を飛んできたのかもしれない。
 ルサカもそれを黙って見送った。
 多分、気持ちは同じだった。漠然とした何かを感じて、言葉にしようがない気持ちになっていた。
 帰ってきたタキアがいつもの、むしろ繁殖期の竜らしい竜に戻っていた事に、少しルサカは安堵していた。
 要するに、ものすごく発情していて交尾したがっている状態。
 これは仕方ない。正常な、繁殖期の竜の正しい姿だ。この、正しい姿に戻っている方が健全といえば健全だ。精神的に落ちたままだったら、こうはいかない。
「本当は一緒に入りたい」
 ルサカを抱きしめて、髪に顔を埋める。
「……茹だりそうだから、やめておく。……待ってるから入っておいでよ」
 タキアは本当に甘えるのがうまい。羨ましくなるくらい、うまい。
 タキアだけじゃない、フェイもだ。竜はみんなこうなんだろうか、というくらい、拒めなくなるような甘え方をする。ものすごく甘え上手だ。
 さみしがりやで素直で無邪気で、無垢に持っている愛情の全て伝える。そして時々見せる、後先を考えない、衝動的で、刹那的な言動。
 本当に、何て不思議な生き物だろう。



 タキアが風呂に浸かっている間に、ルサカは自分の部屋に閉じこもって色々考えていた。
 本当に色々。
 まさか齢十四にしてこんな斜め上な性の悩みを持つとは、竜の巣に連れてこられるまで、思ってもみなかった。
 攫われる前のルサカの性の悩みなんて、今に比べたら本当に些細なものだ。
 いかにマギーやライアネルに悟られないように、一人でする、その後始末をする、こっそり洗濯する、その程度だ。
 当時は重大で非常にデリケートな悩みだったのに、今にして思えばものすごく平和で普通で大した悩みじゃなかった。
 目の前に、あの滋養飴の詰まった瓶を置いて、考える。
 これを使うのは、正直抵抗がある。
 確かに身体の負担は減る。減るけれど、あの『増幅』の副作用がつらい。
 つらいというのは『気持ちよすぎて困る』という赤裸々なものと『タキアのやる気を引き出しすぎる』といういいのか悪いのか分からない効果と、割と深刻に『なんだか危ない薬を使っているような、倫理的にいけない気がする』という複合的な理由からだ。
 特に三つ目の理由。
 このまま使い続けて、本当に安全なのか、と不安があった。
 珊瑚は『連続して使うのは二回まで』と言っていた。ただ、常用する事に関しては、何も言っていなかった。
 更に、これは大人の番人が使うものだ。
 未熟なルサカが飲むには強い薬だ。だから半量を飲んでいるが、そんな未熟な番人が使い続けている前例があるんだろうか。
 現実的に、頼っている。
 繁殖期だけでもこれを使えれば、交尾で弱って死ぬという事はない。これを使えなくなると困るのは間違いない。
 タキアもあまり勧めたくはないと言っていた。
 ルサカは瓶の蓋を開け、一粒摘まみ出す。
 繁殖期の間だけ。そう決めておけば、問題ないはず。



「……ルサカ、咽喉乾いた。それとね、今気付いたけど、交尾の前に僕の部屋に飲み物とか食べ物とか、簡単なの用意しておけば、すぐ食べられていいんじゃないかな」
 埃を落としてすっきりしたタキアは、気分も良さそうにそんな事を言いながら、厨房に入ってきた。
「早っ。もうお風呂から出てきたの? ……それは思いつかなかった。……考えてみたらそうだね」
「今の今まで思いつかなかったっていうより、何も考えずに交尾してたか……」
 ルサカからレモン水の入ったコップを受け取って、タキアは無言でルサカを見つめる。
 ルサカもそのまま押し黙っている。
 二人の間に、暫くの沈黙があった。
 まさかの展開だった。タキアは言葉がすぐには出てこなかった。
 かなり前に、『絶対着ないから!』とルサカに激しく拒否されたあれ。
 今、目の前にいるルサカが着ているのは、そのまさかのメイドさんのエプロンドレスだった。
 絶対に着ない、と言っていたルサカが、何故か、そのメイドさんのエプロンドレスを着ている。
「……先に言っておく。……笑ったり、何か言ったりするな」
 いたたまれないのか、ルサカはさっさと厨房から出て行く。
 暫くタキアは動けなかった。少し固まったあと、冷静になろうとレモン水を一気に飲み干す。
「……ちょっと待ってルサカ!」
 慌てて追いかけていくと、ルサカは逃げるように小走りになる。
 まず足の速さでタキアに勝てるはずがない。あっさり捕まって、そのまますぐそばのタキアの部屋に引っ張り込まれる。
 タキアにしっかり抱きしめられたまま、扉のすぐ脇の壁に押し付けられるが、ルサカは羞恥で顔が上げられない。
「すごく似合う!」
 言うな、と言っておいたけれど、そんなのタキアが守るはずがなかった。
「すごく可愛いし綺麗だしつやつやでふわふわ!」
 言いながらルサカの顔中にキスをしまくる。
「……何も言うなって言ったのに!」
「無理。……この間、僕が便利そうだって言ったから? だから着てくれた?」
 ルサカは顔を背けて目を閉じている。これはタキアにも分かる。ルサカが恥ずかしがったり、照れたりしている時の仕草だ。
「……他に何も出来ないし。……これくらいは、タキアに協力するよ。残りの繁殖期はこれで過ごすから」
「……いいの? ……本当に?」
「いいっていうか……まあもう決めたし」
 羞恥に勝てないのか、ルサカは顔を背けて目を閉じたまま、ぼそぼそと答えている。その、素直になりたいのになれない、という風情がますます可愛い。
 それにしてもいつの間に、こんなものが。いつかのメイド服は、激怒したルサカがさっさと返品していた。
 そういえば、ルサカがフェイの服を珊瑚に頼んで、古城の巣の天辺に置いていって貰ったと言っていた事をタキアは思い出す。
 その時に一緒に頼んだのか。
「なんかガーターベルト、とか一緒に入ってたけどそれは許して。……つけ方わかんないし、なくても別に問題ないだろうし。……さすがにそこまでは無理だ」
 タキアはもう遠慮なく、片手でルサカを押さえつけて片手でスカートをパニエごと捲りあげている。容赦ない。竜の分かりやすく単純な好奇心のまま、捲りあげている。
「……ちょっとタキア、何してるんだよ…!」
「……下着はふつう」
「何言ってるんだよ、当たり前だろ……!」
 またタキアはルサカの顔にキスをしまくる。タキアがとにかく何だかとても感動しているのは、ルサカにも伝わっていた。
「僕の為に? ……僕が便利そうだって言ったから? ……ルサカは優しい。ちゃんと考えてくれてたんだ。……あんなに嫌がってたのに、それでも着てくれたんだ……」
 あまりにキスされすぎたせいで、ルサカはもう息が上がっていた。唇は震えて、甘い息が零れ落ちる。
「……可愛い。ルサカ、唇が真っ赤だよ」
 その震える唇に甘く噛み付いて、ちゅっと音を立てて吸う。それだけで押さえつけていたルサカの身体が震え出す。
「滋養飴使ったんだ。……手加減できなくなりそう」
 もうタキアの息も荒い。もう早くも蕩け始めたルサカの腰を片手で抱きながら、パニエに守られたスカートの中の下着に手をかける。
「うん。……すぐ脱がせられて楽」
 小さく笑うと、ルサカは耐え切れないのか両手でタキアにすがるようにしがみついた。
 下着をひき下ろしながら、いつも思うけれど、下着も綺麗な色や生地のを着てくれたらいいのに。そんな事言ったら、今度こそひっぱたかれそうだけど、とタキアは思う。
「……タキア……ふ、う……」
 なめらかなパニエが足に触れるだけでも感じるのか、ルサカの吐息はもう蕩けきって、今にも膝から崩れ落ちそうだった。
「……もうぬるぬる。……ルサカ、こんなに濡らしてたら、服が汚れちゃうよ」
 パニエごとスカートをたくし上げ、晒す。
 もうルサカのそれは硬く熱く膨れ上がって、触れられてもいないのに、たらたらと快楽の涙を流していた。
「……いじわるするな…っ…!」
 怒っているようだけれど、甘く蕩けきった声に迫力なんかない。余計に誘うように聞こえるくらいだ。
「だってほら……すごいよ」
 タキアの綺麗な指がそれに触れ、軽く撫で上げる。
 それだけでルサカは咽喉を仰け反らせて、短い悲鳴のような喘ぎ声を上げた。
「やめ、あっ…ああっ!」
 タキアにしがみついていたルサカの指は、力が抜けそうなのか、必死で爪を立てている。
「いっちゃいそう? ……いいよ、我慢できなかったら。ちょっと、僕も我慢できそうにないけど……」
 ルサカの膝裏を掴んで、軽く持ち上げる。壁にルサカをもたれさせたまま、タキアは寝間着代わりに羽織っていたシャツをたくし上げて、もう熱くなって体液を滲ませる異形のそれを引き出す。
「……ルサカ、ゆっくりするから。……自分で入れちゃダメだよ」
 よく言い聞かせてから、ルサカの足の付け根の奥、興奮を訴えて収縮を繰り返すそこに押し当てる。
「あ、あっ……タキア、も、くぅ……!」
 軽く擦り付けられただけで、ルサカは耐え切れないのか腰を摺り寄せる。
「……ダメだよ。僕だって我慢してるんだから。……ルサカ、舌、出して」
 言いなりに、ルサカは震える舌先を差し出す。その赤く尖った小さな舌にタキアは甘く吸い付く。
 その小さな舌を絡め取り甘く食みながら、ゆっくりと先端をそこに含み込ませると、それだけでルサカの足が跳ねた。
「……うあ、あっ……!」
 硬く膨れ上がったその先端に浅く抉られただけで、ルサカは一息に達した。
 タキアの方が驚いた。
 パニエをべったりと濡らして、ルサカは荒い息を漏らす。泣きそうな顔をしながら、小さく、気持ちよくてしんじゃう、と呟いた。
 こんなの、繁殖期の竜の、なけなしの理性を消し飛ばすに決まっている。
「ルサカ、ごめんちょっと無理そう……っ……」
 達して激しく収縮を繰り返すルサカの蕩けた中に、一息に押し入る。膝裏を取られて持ち上げられていたつま先が、大きく跳ねた。
「あぅ……! あ、あっ、タキ、アっ……くぅ、んぅっ!」
 ルサカは必死にタキアにしがみつく。身体が融け落ちてしまいそうだった。
 ルサカの柔らかな襞は熱く甘く蕩け、タキアの異形のそれをきつく締め付ける。思わずタキアの唇から、切なげな吐息が零れ落ちた。
「動いたら、すぐいっちゃいそう。……ルサカ、そんなに、締め付けたら……っ…」
 ルサカの中のそれは、燃えそうなくらい熱く、硬く、脈打つ。それだけでルサカも耐えられないのか、甘い声だけが零れ落ちる。
「だって、こんなの、も……っ…!」
 耐え切れないのか、ルサカは動かないタキアに焦れて、自分から腰を揺する。
「……く、ルサカ、もうっ……!」
 淫らに腰を揺すられて、耐え切れずにタキアはルサカの中に、促されるままに熱を吐き出す。その身体の奥深くを叩いた竜の体液に、ルサカの背中が激しく震えた。
「……あ、あぅ、くぅ…っ!」
 奥深くに溢れたそれを味わうかのように、ルサカは恍惚と目を伏せ、甘く息を漏らす。
 ここまで蕩けて淫らな顔をするルサカを、タキアは見た事がなかった。
 繋がったまま、ルサカを抱いて床に座り込むと、荒く息をつくタキアの唇に、ルサカは唇を寄せ、囁く。
「タキア……好きだよ。……大好き」
 こんな蕩けた表情で囁くのは反則だ。完全に竜を誘う番人の、淫らな仕草そのものだ。
 ルサカの中に埋め込まれたままの、タキアのそれが再び熱を持ち、膨れ上がる。
「ふあ、あっ……」
 タキアの膝の上でルサカはふるっ、と身震いする。
「ルサカ、えっちすぎだよ……。僕が色んな意味で、困る……」
 パニエごとスカートをめくりあげて、繋がったそこを晒す。
 ルサカの性器はいつ弾けてもおかしくないくらい、膨れ上がって脈打っている。
 滋養飴は本当に罪深い。
 照れ屋で恥ずかしがりやのルサカが、もう何も考えられないのか、見られているのに淫らに腰を揺すり始めるくらいにまで乱れる。
 その淫らな仕草に誘われて、そのままルサカを押し倒し、足を開かせ、タキアは突き上げ始める。
「あぅ、あっ…んんぅ……っ…!」
 甘く高い声を漏らすルサカを抱きしめながら、タキアは一瞬、不安になった。
 なんだか、ルサカはどんどん感じやすく、蕩けやすくなっていないか?
 気のせいかもしれない。滋養飴の副作用が目立っているだけかもしれない。
 それでも、なんだか使うたびに、より鋭敏になっているような気がする。
 単なる気のせいかな。
 甘く喘ぐルサカの唇に唇を寄せて、タキアは目を閉じる。


2016/03/27 up

-- ムーンライトノベルズにも掲載中です --

clap.gif clapres.gif