ライアネルが一体、何を考えているのか、どうしたいのか、さっぱり分からない。
ルサカが人の世で生きていけない事は、ライアネルだって十分理解しているはずだ。
それなのに何故、ルサカを賭けて決闘する事になるのか。
ルサカはひどく混乱していた。
考えてもちっともまとまらない。
まさか、ライアネルはリーンの竜騎士になるつもりなのか。
もしもライアネルが勝った場合、リーンの竜騎士になってルサカを引き取るつもりなのか。
けれどそうなると、タキアがライアネルを竜騎士に選ばないとも限らない。
その場合、ライアネルは竜の強靭な生命力と長い命を得て、タキアと引き離し、ルサカと二人で暮らすつもりなのか。
そうなったらリーンが黙っていない気もするが、リーンはなんだかんだでタキアに甘い。少々愛情表現がいびつだが、弟を愛しているのは間違いない。
ライアネルにあれだけ執着しているが、タキアに譲る気にならないとも限らない。
一番平和的に問題なく解決するなら、タキアが勝つ、これだが、これだってルサカは複雑だ。
まず、ライアネルが魔眼の騎士だとはいえ、あの強靭な体躯を誇る竜と戦って、無傷でいられるのか。
タキアだけじゃない、ライアネルの事だって心配だ。
ふたりとも傷付いて欲しくない。
ライアネルはあの時、許してくれたのだとばかり、ルサカは思っていた。
あの笑みは、タキアの気持ちもルサカの気持ちも、認めてくれたからこそだと思っていた。
それがこうだ。
本当に、ライアネルが何を考えているのか分からない。
ルサカももう考えが全く追いつかなかった。
「……僕はちょっとヴァンダイク卿の気持ちが、分かるような気がするよ」
傷を治す為に、タキアは大人しく寝台に横になっていた。
ルサカが無理矢理服を脱がせて見れば、タキアもひどい怪我を負っていた。
クアスは風の刃を使う。クアスがタキアに火傷を負わされたように、タキアも風の刃であちこちに裂傷を負っていた。
深く筋肉を深く傷付けている箇所も幾つかあった。こうなると治すのに時間がかかる。
数日で跡形もなく治ると分かっていても、ルサカはその傷を見るのが辛い。タキアの痛みが辛く悲しい。
「ぼくはさっぱり分からないよ……。笑ってくれたから、きっとぼくの気持ちを分かってくれたんだと思ってたのに……」
ルサカは落胆を隠せない。
やはり、ライアネルに認めてもらえたと思い込んでいただけに、ショックが大きかった。
「ヴァンダイク卿から見たら、僕はクアスと同じようなものなんじゃないかな。……大事な宝物を持っていこうとする竜」
「クアスとは違う! タキアと一緒にいたいとぼくも思っているんだから!」
思わず声を荒らげる。
タキアは手を伸ばして、ルサカの紅潮した頬に触れる。
「今はそうだけど、最初は違ったよね。……僕はルサカを無理矢理、自分のものにした」
その通りだ。
どう言い繕っても、その出会いは変えられない事実だ。
「だから僕は代償を払わないとならない。……ヴァンダイク卿には、その権利がある」
「だからって……!」
「僕が勝てばいいだけの話だ。……正直、魔眼の騎士に勝てるかといわれると、難しい。けれど僕はヴァンダイク卿に誠意を見せなければならないんだよ」
いつの間に、タキアはこんなに大人になっていたのか。
素直で天真爛漫で、子供っぽくて甘ったれで、それなのに、いつの間に、こんなに強い意志を持つようになっていたのか。
頬に触れるタキアの指に手を伸ばして、強く握り締める。
「ぼくはどうしたらいいんだ。……タキアもライアネル様も、大事なんだ。どっちにも傷付いて欲しくないんだ。……なんでこうなっちゃうんだよ。分からないよ」
最後の方は涙声になっていた。
こんな事で泣きだすなんて、女々しい。ルサカは自分でもそう思う。
タキアが真剣に向き合おうとしているのに、ここで泣きだすなんて、みっともない。
ルサカはぐっと泣き出したいのを堪える。
「……ヴァンダイク卿に怪我をさせるだろうし、僕もただでは済まないだろうな。ヴァンダイク卿の強さが全くはかれないけど、魔眼持ちなら竜の魔法全てが無効化される。身体強化を無効化されて、ブレスも効かないとなると、兄さんでも勝てるかどうか。……爪と牙だと、この体躯だからね。小回りの利く人間の方が有利だ」
竜の攻撃はほぼ魔力に依存している。
だからこそ、一切の魔法が通用しない魔眼の騎士が、竜と対峙するなら最強の騎士だと言われる所以だ。
「……ヴァンダイク卿にもリスクはあるよ。……竜の魔法も人の魔法も効かないから、怪我を負わせたら魔力での止血が出来ない。……卿も命懸けの勝負なんだ。だからこそ、僕も誠意を見せなければならない」
ルサカは返す言葉が浮かばなかった。
ライアネルも、タキアも、本気なんだ。
どちらも、自分の気持ちの整理の為に戦うつもりなのだと、はっきりと分かった。
ルサカはぐっと眦を拭う。
タキアは笑って、寝台の上に身体を起こす。
「ルサカ、おいでおいで」
いつものように、自分の膝の辺りを叩いて呼ぶ。
思わず笑ってしまった。こんな時でもタキアは変わらない。
「……服が汚れてるから……」
ライアネルたちを見送って、そのままタキアの手当てをして付き添っていた。
だからあの、タキアの生まれ故郷の、西の砂漠の国の服のままだった。血塗れのタキアに抱きついていたせいで、あちこちに血の跡がついていた。
「綺麗なルサカを間近で見たい」
そう甘えられると、ルサカも拒めない。
タキアの怪我に触れないように、そっと膝の上に跨がる。
「……うん。すごく綺麗だ。……やっぱりルサカには、綺麗な服を着ていて欲しい」
子供のように無邪気に笑う。
「……これくらいなら、また着るから」
「本当に? 絶対に? ……ルサカはメイドさんの服の時も、嘘ついたからなあ」
「根に持ってるね、タキア」
思わず笑ってしまう。
その笑ったルサカの唇に、タキアは軽く口付ける。
口付けながら、ルサカの、刺繍の施された腰帯に手をかける。
「……タキア、傷に障るよ」
軽く諌めるが、タキアは気にせず帯を解く。
「……脱がせるのが勿体ないけど、僕がつけたしるしが見たい」
慣れた手つきで上衣をはだけさせて、下腹の紅い花を晒す。
その紅い花弁に綺麗な指先を滑らせ、辿る。
「……あんまり、触るな……」
もうルサカの声は震えて上擦りはじめている。
「……どうして?」
紗と絹の上衣の上から、胸元に口付ける。
「……本当に意地悪するようになったね、タキア……」
少し乱れ始めた息を吐きながら、丁寧に優しく紅い花弁を辿るタキアの手に、手をかける。
「意地悪するつもりじゃないんだけどね」
服の上から辿りついたルサカの胸の突起に、甘く噛み付く。
たまらずにルサカの唇から、甘い吐息が零れ落ちた。
「……傷が、治りにくくなるよ……」
「少しだけ。……ルサカがすごく綺麗だから、どうしても触りたい」
下衣をはだけさせて、もどかしげに下着に手をかける。その焦れたタキアの手を、ルサカは掴んで引き止める。
「……だめ?」
「……キスしてくれたら、いいよ」
ルサカがこんな事を言うなんて、珍しい。珍しくちょっぴり素直な、甘える素振りだった。タキアは嬉しそうに笑いながら胸元から唇を離し、ルサカの唇に触れる。
舌先を差し入れると、ルサカのなめらかな舌先がすぐに触れ、甘えるように吸い付く。
濡れた音を立てて深く口付けながら、下着を引き下ろし、もう硬くなりはじめたルサカのそれに指を絡める。
タキアの綺麗な指は、簡単にルサカの快楽を引き出す。
ルサカのどこを触れば甘い声を引き出せるかよく知ったその指は、丁寧に優しく、ルサカを熱く甘く蕩けさせる。
「ふあ、あッ……! も、タキア、だめ、もう、くっ…!」
耐え切れないのか、タキアの肩に額を押し当ててルサカは緩く首を振る。
「いっちゃいそう? ……ルサカ、顔見せて」
いやいやをするように小さく首を振るルサカを促して、顔を向けさせる。
眦に涙を浮かべて快楽に耐えるルサカに口付けながら、きゅっと指を絡め、きつく擦りあげる。
「く、あ、あ……あ、んんぅ…っ…!」
切なげに眉根を寄せ、甘く淫らな息を吐きながら、ルサカはタキアの掌を濡らして達した。
「……ルサカ、すごく綺麗だ。……それに、すごくえっちで可愛い」
達したばかりで荒い息を紡ぐ唇に舌先で触れ、舐める。そのタキアの舌先をルサカの舌先が追い、触れる。
そのルサカの赤く小さな舌先を絡め取り甘く食むと、掌のルサカが再び熱を持ち始める。
「ちょっと触るだけって思ってたけど、やっぱり無理そう」
小さく笑って、タキアは濡れた掌で、ルサカの両足の間の奥を撫でる。撫でながら、探り当てたそこを、優しく指先で開く。
少し撫でただけで、そこは綻び始めた。ゆっくりと指を差し入れると、中は蕩けそうに熱かった。
膝立ちしていたルサカはもう腰が砕けそうなのか、タキアの首に両手を回して、震える吐息をつきながらしがみついていた。
「……ルサカ、もうちょっと我慢してね。……ここが融けたら、支えてあげる」
ルサカの柔らかな耳朶に甘く歯を立てながら囁くと、ルサカの中に沈めた指を、蕩けはじめた柔らかな襞が締め付ける。
タキアの指が動くたびに、ルサカの唇から、泣き声のように細く甘い声が零れ落ちる。ルサカがその指の甘さに身震いするたびに、ルサカを飾る金や銀、瑪瑙や翡翠の宝飾品がしゃらしゃらと鳴った。
くちくちと粘った水音が響く頃には、ルサカは蕩けて甘く乱れた吐息を紡ぎながら、タキアにもたれ掛かっていた。
「……ルサカ、少し腰あげて」
囁かれて、なんとか甘くしびれる腰をあげると、すぐに熱く滾ったタキアのそれが押し当てられた。
「あ、あっ……! んぅ、ん…!」
ルサカは夢中でその硬く膨れ上がった先端を迎え入れる。くぷ、と濡れた音を立てて、それはあっさりとルサカの甘く蕩けた中に押し込まれた。
「は……、ルサカの中、めちゃめちゃ熱い……」
タキアの切なげな吐息を聞いただけで、ルサカの蕩けた内壁はその迎え入れたそれをきゅっと締め付ける。
「タキア……タキア、……好きだよ……」
乱れた甘い息を吐きながら、ルサカは夢中で囁く。
膝の上のルサカの腰を抱いて、タキアはその囁く唇を、唇で塞ぐ。ルサカの囁く言葉を全て逃さないように、甘く甘く、その唇を捕らえる。
繋がったまま、タキアの胸元にもたれて、ルサカは吐息を洩らす。
下腹の紅い花の奥が、切なくなるくらいに甘く、熱かった。
時折顔をあげてタキアを見上げると、タキアは嬉しそうに微笑んで、ルサカの唇に触れる。
タキアのこの、優しい不思議なすみれ色の瞳が、こんなに切なく愛しく思えるようになったのは、いつからだろう?
「……タキア、約束覚えてる…?」
もたれかかったまま、ルサカはぽつん、と呟く。
「……夕べの? ……最後の夜ならもっと別の事を言うっていってた、あれ?」
ルサカの汗ばんだ額に幾度も口付けながら応える。
「そう。……まだタキアに言った事がなかった」
ルサカの腰を抱いていたタキアの右手を取って、ルサカの胸にその掌を押し当てる。
この、泣きたくなるほど胸を締め付ける切なさの名前を、正体を、ルサカは知っている。
知っていたからこそ、言葉にする事が出来なかった。
簡単に口になんて、出来ない。
それくらい大切な、宝物のような、この気持ちを、タキアに伝えよう。
この胸のうちにある思いに、今日、名前を与える。
ルサカは顔あげて、タキアの綺麗なすみれ色の瞳を見上げる。
タキアを思うこの気持ちは、ルサカを弱くも、強くもする。とても不思議で力に満ちた思いだった。
微笑んで、ゆっくりと、はっきりと、胸を張って、タキアに告げる。
泣き出しそうな笑顔で、ルサカは囁く。
「……誰より愛しているよ、タキア」