リーンの手当てと治癒の魔法があっても、癒やしきれるような程度ではない。
あまりに深く傷付いた為に、タキアは人の姿になる事が出来なかった。
竜の姿のまま、古城の巣の天辺にある竜の巣で、蹲って静養していた。
傷を治すために、タキアは一日の大半を眠って過ごす。
タキアが起きているほんの少しの時間に、ルサカはタキアの傷の手当てをし、タキアが再び眠りに落ちるまで、寄り添う。
幸い好天に恵まれ、古城の巣に雨が降る事はなかった。ルサカはそう思っていたが、思えば竜はある程度の範囲内なら天候を自在に操れた。
弱っていても、巣と自分を守る事は忘れない。天候はタキアが変えていたのだと思われる。
ルサカはほぼ一日中、初夏の風が吹き抜ける竜の巣に蹲るタキアのそばで過ごしていた。
「……新しい鱗が出来てる。良かった、傷ももう少しで塞がるかな」
身体のあちこちの傷口の剥がれ落ちた鱗のかわりに、薄く新しい鱗が再生し始めていた。その生まれたての、薄氷のような薄紅の鱗に、ルサカは柔らかく口付ける。
タキアは薄く目を開けて、ルサカに鼻先を摺り寄せながら小さな声で一声、鳴く。
だいたい何を言っているのか、ルサカも分かるようになった。
大丈夫だからルサカも休め、と言っているのだろう。
「ちゃんと寝てるし食べてるから大丈夫。……タキアが起きてる時くらい、そばにいてもいいだろ……」
伏したタキアの鼻先を抱いて、頬を摺り寄せるとタキアは再び目を閉じる。
多分、起きていられないくらいに、タキアは消耗している。
そんな痛々しい姿のタキアの為にルサカが出来る事なんて、ほんの少しだ。
さみしがりやのタキアの為に、寄り添う事くらいしか出来ない。
もどかしいほどの自分の無力さに、泣きそうな気持ちになる。
眠りについたタキアの鼻先を抱いて、ルサカも目を閉じる。
ふと、頬に触れる柔らかな感触でルサカは目を覚ました。
いつの間にかタキアに寄りかかったまま寝入ってしまっていたようで、もう夕暮れに差し掛かっていた。
「……ルサカ、目が覚めた?」
久し振りに聞く声だった。
柔らかな唇が、頬に、額に、唇に触れる。
目を開けると、あのすみれ色の瞳が、目の前にあった。
「……タキア!」
覗き込むタキアの首に両手を回して、夢中でしがみつく。
「うん。……人の姿でないと、ルサカとキスできないから不便だ」
笑いながら、怪我を負わなかった左手でルサカを抱き寄せる。
「なかなか起きないから、どうしようかと思った。……でも寝顔が可愛かったから、ずっと膝に乗せて眺めてた」
いつものタキアだった。子供のように嬉しそうに笑う。けれどその頬は青ざめて、深手を負った右手は動かないのか、力なく降ろされたままだった。
「タキア、腕は? ……痛まない?」
「痛みはもうほとんどないよ。……表面の傷は塞がったけど、筋肉と骨はまだ繋がらないから動かすのは無理かな……」
思わず涙目になるルサカに気付いたのか、タキアはもう一度ルサカの唇に唇を寄せて、囁く。
「心配しないでよ。少し休めば元通りになるから。……ああ。……片手じゃルサカを抱きしめられないや」
もどかしげに左手で抱いたまま、軽く音をたてて口付ける。
幾度か啄み、それから唇を離して、タキアはルサカの額に額を押しあて、左手で頬に触れる。
「そんな泣きそうな顔しないでよ、ルサカ。……どうしていいか分からなくなる。ルサカは笑っていてくれなきゃ」
竜は確かに強靭だが、さすがにあんな大怪我は負担が大きすぎた。
人の姿になったものの、タキアはやはり数日の間は、ほぼ一日中眠った状態だった。
たまにぱっちりと目を覚まして、温泉に浸かりたい! と主張する。ルサカが付き添いながら入浴して、風呂から上がるとまたぐっすり眠っていた。
そういえば野生の動物も怪我を負うと、温泉で癒やす、という話をルサカも聞いた事があった。
竜も温泉で身体を癒やすのかあ、と思いつつ、そういえば竜のあの巨大な身体では、全身浸かれるような大きい温泉はなさそうだ、と気付く。
人の姿はそういう時にも便利なのかもしれない。
だいぶタキアも元気になってきたし、タキアの寝台のリネンを全部取り替えよう。そう思い立ったルサカが替えのリネンを抱えてタキアの部屋を訪れると、タキアは早々に目を覚まして、ベッドから這い出して椅子の上で膝を抱えて座っていた。
「あれ、今日は早いね、タキア。おはよう」
元気な時でもタキアは朝、起こされない限り起きてこない。
それくらい怠惰によく寝ているが、さすがに寝るのに飽きてきたのか、今日のタキアはすっきりとした目覚めだったようだ。
「……おはよう、ルサカ」
相変わらず椅子に座ったままで、おかげでルサカはリネンが替えやすい。
さっさとシーツやカバーをはがしてまとめて投げ捨て、掛けかけをはじめる。
「綺麗なリネンの方がすっきり眠れるよね。今日は全部替えておくから。……どうしたの、タキア。なんだか元気がないけど、どこか痛いの?」
ルサカは素早くベッドからシーツやカバーを引き剥がし、新しいリネンに替え、羽毛の枕を整え、掛け布をかけ、綺麗にベッドメイクをする。
汚れ物のリネンをまとめてドアの横に置いて、タキアのそばに寄ってその足元に跪いて、タキアの顔を覗き込む。
「……どうしたの。……どこか痛いの? リーンさんかエルーさんを呼ぶ?」
無事な左手で片膝を抱えて、暫くタキアは押し黙っていた。
暫く黙り込んで、それから、少し拗ねたように顔を背けて、唇を尖らせる。
「ルサカ、怒らない?」
この子供っぽい仕草を見るのは、久々な気がする。
「なにか怒るような事あったっけ? ……どうしたの。言ってくれないと分からないし」
タキアは相変わらず目を合わせないまま、やっと口を開く。
「……交尾したい」
すごく久々に、このストレートな要求を聞いた。
そういえば、タキアはこの直球な誘い文句を言わなくなっていたなあ、とかルサカは懐かしく振り返る。
「大怪我したのにって怒られそうだけど、したい。……ルサカがいい匂いさせてるし、今まで大人しく寝てたし、ちょっとくらい、したい」
タキアはよく、何かねだりたい時に気恥ずかしいのか、こんな態度を取る。
このちょっと拗ねたような態度が、可愛い。すごく可愛い。
大人になったように見えても、タキアはあまり変わっていない、と少し安心してしまった。
「タキア、可愛いな」
思わず笑って抱きついてしまう。
「……でも安静にしてないとね。それはさすがにちょっとだめじゃないかな。……絶対そんな事してたら安静にならないよね」
「……そうだけど……」
タキアもそれは分かっている。
あの決闘の日から、もう十日ほど経っていた。最後に交尾したのはいつだったか、あの決闘の前だし、随分前だ。
思えば怪我さえしていなければ、こんなに間が開くことはなかった。
成人したての若い竜の旺盛な繁殖意欲を考えたら、そろそろ限界かもしれない。怪我をしていても、それはそれこれはこれなのだろう。
ルサカは少し考えて、それから、拗ねたタキアの唇に軽く口付ける。
「……タキア、大好きだよ。……だから今日は、優しくしてあげるよ」
椅子の足元に跪いて、タキアの寝間着をたくし上げ、下着を引き下ろす。
ルサカが指を絡めた時には、もう熱く硬くなり始めていた。
タキアの視線を感じて、ルサカはそれを両手で包んだまま、軽く上目遣いで見上げる。
「……あんまりみるな。ぼくだって恥ずかしいんだから」
そう言っても、絶対タキアは見ているだろうな、と思いながら、ルサカはそのタキアの硬くなりはじめたそれに唇を寄せ、舌先で舐める。
「……だって、前は目隠しされてたし。……手まで縛られたよ」
ルサカの柔らかな舌先の感触に、タキアの声が少し上擦る。
「……んっ…あの時の事は忘れてよ。あの時は必死だったの!」
思わずむきなってしまう。あの時は本当に色々な意味で必死だった。
あれからタキアに散々これをされたけれど、ルサカはほとんどする事はなかった。だいたい、ちょっと舐めたりしはじめると、触りたくてうずうずしているタキアに邪魔される。
再び唇を寄せ、根元から柔らかく舌先で辿り、先端をくすぐるように舌先で撫でる。
タキアの膝が軽く震えるのを見て、ルサカはそのまま先端の割れ目を丹念に舌先で舐め、つつき、唇を寄せ、吸い付く。
「……やば、ルサカ…そんなの、すぐいきそう……っ……」
タキアの声は微かに震えている。ルサカが自分のそれを舐め、咥えているその姿だけでも、タキアにとってはものすごい刺激だ。
「……ぷは、ふ……っ……」
少々間抜けな息継ぎをしながら、タキアがルサカにするその仕草を思い出しつつ、ルサカは指を絡め、きつく締め付け、擦りあげる。
特に弱い先端の割れ目を、舌先でこじ開けるようにつつくと、異形のそれは激しく脈打ち、びくびくとルサカの掌に、激しい興奮を伝える。
咥えなおす時にちらっとタキアを見上げると、切なげに眉根を寄せ、唇を震わせて熱い吐息を漏らしながら、ルサカの髪に手を伸ばし、優しく指を梳き入れ、撫でる。
そのタキアの綺麗で淫らな顔を見るだけで、ルサカの下腹の紅い花の奥が熱くなる。
熱く脈打つそれに指を絡め、きつく締め上げるように擦りあげると、ルサカの舌先で、硬く張り詰めていたそれが弾けた。
口の中に収まりきらないその雫は、ルサカの口元と両手をべったりと濡らした。
「……は……っ…ごめん、大丈夫……?」
詰めていた荒い息を吐きながら、目の前に跪くルサカを左手で抱き、引き寄せる。
「……ん。……大丈夫……」
ルサカは少し目を伏せて、両手を濡らすその雫に唇を寄せ、小さな赤い舌先で舐め取る。
ぴちゃ、と小さく濡れた音が響く。
「ルサカ、それ、めちゃめちゃやらしい……」
思わず言ってしまった。途端に、ルサカがかあっと頬を染め、目を反らす。
「……だ、だってタキアが……」
「うん。……褒めたの。……ルサカはやらしくて可愛い」
引き寄せて、額と額を合わせて笑う。
「……ルサカ、僕がつけた竜のしるし、見せてよ」
これはわざと言っている、とルサカも分かった。タキアはルサカのズボンのボタンに左手の指先をかけて、ねだる。
絶対見せるまで、ルサカを離す気がないのも分かっていたし、ルサカもこの先の覚悟を決めていた。
促されるままにボタンを外し、下着ごと足からズボンを引き抜く。
タキアの左手は、器用にルサカのシャツの中に滑り込み、素肌の腰を掴んで引き寄せる。
ルサカは少しだけ、羞恥で震えていた。
その震える指先で、シャツの裾を摘んで引き上げる。
ルサカの下腹の、なめらかな素肌に咲く、紅く鮮やかな五枚の花弁の竜のしるしが晒される。
「……ルサカの、もう硬くなってる。僕のを舐めてるだけで、こんなになった?」
腰を掴んでいたタキアの左手は、下腹を撫でながらその硬く熱くなったルサカのそれに指先で触れる。
思わずルサカの唇から、甘く融けた吐息が零れ落ちる。
「……っ、タキアが……えっちな顔、するからだ……」
片足をタキアの椅子の端にかけ、身を乗り出してタキアに口付ける。
その唇に甘く噛み付いて、舌先を誘い出そうとすると、ルサカの熱くなった性器に絡んでいた指が、きゅっと締め付ける。
「あ、あっ……!」
高い声が零れ落ちた。ルサカはその声を押し殺すかのように、タキアの唇に吸い付く。
誘い出した舌先に甘く噛み付いて、それから唇を引き離す。
「……言っただろ。……今日は、優しくしてあげるって」
もう一度、タキアの唇に触れ、軽く啄みながら、ルサカはタキアの体液で濡れた指先を、自分の両足の奥の、固く閉じた蕾に伸ばす。
タキアを迎え入れるには、間が空きすぎていた。頻繁に交尾している時なら、少し無理をすれば、慣らさずにも出来るが、これだけ間があくと、さすがに無理だ。
「……ふあ、あっ……」
軽く指先で撫でただけで、甘い声が漏れた。慌ててルサカは唇を噛み締める。
撫で、タキアの体液を纏った指先を差し入れる。それだけで、背筋が震えた。
「……ルサカ?」
タキアもさすがに気付いた。
一度ルサカの自慰を見てしまった事があったが、あの時はめちゃめちゃ泣かれた。
恥かしがりやで照れ屋のルサカが、タキアの目の前で、自分からそんな事をするなんて、タキアは思っても見なかった。
「……ルサカ、ちょっと、無理しな」
慌てて止めようとしたタキアの唇を、ルサカの唇が塞ぐ。ルサカの柔らかな舌先が、すぐにタキアの唇を割って入り込んできた。
「……ルサ、カ……っ…」
タキアの唇を塞ぎながら、ルサカは自分の中に沈めた指を増やす。
柔らかく融け始めたそこは、くちくちと粘った水音を立てる。その耳を打つ音を上書きするように、ルサカはタキアの舌を吸い、甘く噛む。
「……あ、あ……っ、ん、くぅ……!」
柔らかく蕩けたそこから、指を引き抜く。ようやくルサカはタキアの唇を解放し、深く息をついた。
唇を解放されたタキアは、同じように詰めた息を吐いて、ルサカの頬に口付ける。
「……は、あ……っ、ルサカ、無理してない? 左手なら動くし、ルサカにそんな無理させたくないよ」
その言葉を聴いて、ルサカは目を細め、恥ずかしそうに微笑む。
タキアの唇に指先で触れ、辿り、もう一度、今度は軽く唇で触れる。
「……ぼくも、タキアが大好きなんだよ」
下腹に触れていた、タキアの熱く硬く滾ったそれを引き寄せ、タキアを迎える為に綻んだ蕾に押し当て、一息に身を沈めた。
「うあ、あっ…! くぅ…!」
熱く硬く膨れ上がったそれを根元まで埋め込んで、詰めた息を吐き出す。
下腹の紅い花の奥が、燃えるような熱さで脈打ち、存在を主張する。
ここに、タキアがいる、と思うと、背筋が震える。このまま身体が融けて燃え落ちるような錯覚すら、覚える。
その震える身体を左手でもどかしげに抱きながら、タキアが小さな声で、好きだよ、と囁く。
硬く目を閉じて震えるルサカの唇に、タキアのなめらかな唇が触れる。
優しく啄ばまれて、ルサカは閉じていた瞳を開け、タキアのすみれ色の瞳を見つめる。
甘く融けた吐息を漏らしながら、ルサカは少しだけ恥ずかしそうに眦を染めて、笑う。
「……タキア、動いちゃだめだよ。……今日はぼくが、優しく、して、あげるから……」
全部リネンを取り替えたばかりなのにな、とか、そんなどうでもいい事を考えながら、ルサカはタキアの寝台で猫のように伸びをする。
丸くなって眠るタキアの額に口付け、両手で抱きしめる。
ぐっすり眠り込んだタキアは、子供のように幼く見えた。
そのタキアの頬に頬を押し当てて、ルサカも目を閉じる。
タキアがぼくを抱きしめられないなら、ぼくが抱きしめればいいんだよ。
目が覚めたら、教えてあげよう。