そんなにタキアが夢中になるくらい、美しいもの。そんなものルサカだって気になる。いつもなら邪魔なんて絶対にしないが、今回ばかりは気になった。
なので、好奇心に負けたルサカは、『本物の竜の巣』に置いたままになっている馬車の荷台に、とうとう顔を出す事にした。
荷台の中で背中を向けて座り込んでいるタキアに、思い切って声をかける。
「そんなに夢中になるくらいすごい宝物って、どんなの?」
「……えっ?!」
ルサカが声をかけるまで全く気付かないほど夢中だったのか、タキアは心底驚いたようだった。
「邪魔するつもりじゃなかったんだけど、そんなにタキアが夢中になるくらいのすごい宝物がどんなのか、気になって。……入ってもいい?」
タキアは手近に転がしていた華やかな絨毯を広げて、ルサカを手招く。
「おいで、ルサカ。……この絨毯、すごく綺麗だよ。座って。……この色はルサカがとても綺麗に映える」
タキアにちやほやされるのは慣れているが、こう露骨に褒め称えられると羞恥を覚える。少し頬を赤くしながら、ルサカは絨毯を汚さないようにブーツを脱いで荷台の足場に揃えてから、言われたとおりに絨毯の上に座る。
「うん。すごく綺麗だ。……この絹もすごくつやがあって綺麗なんだ。これでルサカの新しい服を頼もうかな。きっとすごく似合う」
座ったルサカの方に、今度は真珠色に輝く絹を広げ、羽織らせる。
「たまには僕のために綺麗で華やかな服を着てよ。……すごく似合うのに、滅多に着てくれないしさ」
タキアはその羽織らせた絹ごとルサカを抱き寄せて、頬に口付ける。
「着る機会がないんだよ。綺麗な服を着てたら家の事なんが出来ないし」
タキアはそのままルサカの頬を両手で包んで、眦やこめかみ、額や唇の端を啄む。その唇のくすぐったさに、ルサカは小さく笑う。
「あー、だめだよタキア。絹がシワになる」
笑って片手で遮りながら羽織っていた絹を滑り落とそうとすると、頬を包んでいたタキアの手が離れ、ルサカを逃がさないよう抱きかかえる。
「……もう少し。ルサカがいい匂いさせてるし」
絹を纏わり付かせたままのルサカにのし掛かり、絨毯の上にそのまま仰向けに倒して覆い被さると、タキアはその軽く反ったルサカの白い咽喉に唇を押し当てる。
「ちょっと、タキア……絹もだけど、絨毯も」
タキアは器用にルサカの膝を割って身体を挟む。首筋に口付けを繰り返すタキアの吐息はほんのりと熱い。
「タキア、なんでもうそんなになってるんだよ……!」
また朝からか! ルサカはなんとかタキアの下から這い出そうとするが、こう覆い被さられると逃げ出す事はまず出来ない。ルサカがもがいている間に、タキアは器用にルサカのシャツのボタンを外していく。
「だって、ルサカがいい匂いさせてるから」
「嘘だ、そう言えばぼくが黙ると思って……ちょっと! 本当になにして、あ…っ…!」
こんな時のタキアは本当に器用だ。もうシャツのボタンを全部外して、ルサカの晒された胸元に口付けながら、片手でズボンのボタンを外して手を滑り込ませている。
タキアも、ルサカを黙らせたければ気持ちいい事をしてしまえばいい、とでも思っているのか、さっさとルサカのそれを撫で、掴む。
「タキア、あ……も、触るな、もう…っ……!」
どんな風に触れば、ルサカがすぐに蕩けるか、タキアはよく知っている。根元から優しく擦りあげながら、指の腹で尖端の割れ目を柔らかく撫でる。時折、絡めた指できゅっと締め上げれば、意地っ張りのルサカも、すぐに力が抜け始める。
「ルサカ、ほら。もう滲んでる。……聞こえる?」
タキアの指先が滲んだその体液を弄ぶ。くちっ、と粘った水音が響いた。
「タキア……最近、すごく、意地悪になったね……」
その淫らにルサカを煽る手を掴んで、なんとか引き剥がそうとルサカはあがくが、もう力が入らない。ルサカの身体の事なんて、ルサカ以上にタキアはよく知っている。
「……今回は珍しいものがたくさんあったんだ。これもそのうちのひとつ」
タキアは片手で何か細身の陶器で出来た瓶を引き寄せる。引き寄せ、片手で器用に蓋を外す。
「僕も少し人間の言葉を覚えたから、箱の但し書きとか読めるようになってかなり便利になったよ」
ルサカの晒された紅い花のしるしの上に、その瓶の中身を垂らす。ほんのりと花の匂いのするとろりとした液体は、なんだか温かいような、不思議な感触をしていた。
「……これ、何?」
とろっとしていて、油のようにも見えるが、もっととろみがある。下腹を濡らすそのなめらかな感触に、ルサカは思わず甘さを含んだため息を漏らす。
その反応を見て、少しタキアは悪戯っぽい笑顔を見せる。ルサカの硬く張り詰めたそれを弄っていた手を滑らせて、そのとろみのある液体を指先にすくい上げ、指に絡める。
「交尾する時に使うもの、だって。……まあ、人間は交尾って言わないけどね」
そういえば、ルサカが竜言語を覚えたなら、僕も人の言葉を覚えなければね、と言っていたタキアは、言葉通りに人の言葉の勉強をしていた。結構読めるようになってきたんだよ、と嬉しそうに言っていた事を思い出す。
「人の場合は、性交?」
笑顔で無邪気に嬉しそうに、躊躇いなく口にする。天真爛漫にそんな事を聞く大人なんて、きっとタキアだけだ。
タキアはすごくえっちになった。いや、前々からえっちだけれど、なんだか最近余裕がありそうな素振りを見せていて、余計にえっちになったように思える。前みたいにがつがつしていてくれた方がいい。その方が、じっと見つめられたりしなくていい。そんな事をルサカは考える。
その、とろりと濡れた指先が、再びルサカの性器に触れる。何故かほんのり温かく感じるそのぬめっとした指先に触れられた途端に、ルサカの背がびくん、と跳ねた。
「あ、あっ……! な、なにこれ、変な感じが、ふあ、あっ……!」
露骨に感じて甘くなった声が零れ落ちる。そのルサカの甘く乱れた吐息に、タキアは嬉しそうな顔を見せる。
「気持ちいいなら良かった。……なんだかいつも以上に生々しくえっちな感じ」
そんなはっきり言うな、と文句を言おうとルサカは口を開こうとしたが、すぐにタキアの指に撫で上げられて、言葉にならなかった。媚びて甘えたような声をあげてしまって、慌てて口を塞ぐ。
「なんで口塞ぐの。……どうせ僕しか聞いていないんだから、もっと声を聞かせてよ」
そう文句を言いながら、タキアの手は淫らにルサカのそれに絡む。タキアの指が動くたびに、にちゅ、と淫靡な水音が響いて、ルサカはいたたまれない。震える手で口を塞ぐが、余計にこの生々しい水音が響いて聞こえる。
タキアは耐えるのに精一杯で抵抗らしい抵抗が出来なくなったルサカの胸に唇を寄せて、触られる前から紅く色づいて硬くなった胸の突起に舌先で触れる。
「ルサカは本当に可愛い。……可愛いし、すごく綺麗だ」
舌先で触れていたその紅く尖った胸の突起を含み、ちゅっと音を立てて吸い上げた途端に、タキアの手を濡らしてルサカの張り詰めていたそれが弾けた。
「タキア、くぅ……!」
達した後も優しくそれを撫でられて、ルサカは細い息を漏らす。
「ルサカ……」
促され、薄く唇を開くと、すぐにタキアの舌先が触れる。ルサカのなめらかな舌先を誘い出し、軽く音を立てて吸い上げながら、タキアの指先がルサカの両足の奥に触れる。
先ほどのとろみのある液体とルサカの体液に濡れた指先で、その閉じた場所を撫でられ、ルサカは思わずタキアの背中に両手を回してしがみつく。
「あ、あっ……あ、んんっ……!」
甘えた声を上げてねだる仕草をしてしまうが、ルサカも気付いていない。その切なげに甘く響く声をもっと引き出そうと、タキアのしなやかな指先がゆっくりと差し入れられる。
「く、んんっ……! あ、タキア……ふ、あ……」
指を入れられただけで、ルサカの声が甘く震え、誘うように溶ける。気付いているのかいないのか、ルサカは無意識にゆるく足を開き、もっと奥までねだるような仕草を見せる。
「や、気持ちいい……ふあ、あ…っ……」
普段素直じゃないルサカも、こんな風にじっくりと中を撫で、愛されると、素直にならざるを得ない。このとろみのある液体は、少しタキアが指を動かしただけで派手に淫らな水音を立てるが、それも聞こえないのか、中の感じるところを愛撫され、すっかり蕩けたルサカは恍惚と目を伏せている。
「は、あ……、タキア、ね、もっと、あ、あっ……!」
ねだるようにタキアの手に指を絡めて、腰を揺する。ここまで蕩けると、もうルサカは強がりなんて忘れ去る。淫らに竜を誘う番人の本能のままに、快楽を求めるようになる。
タキアの指を根元まで飲み込んで、ルサカは細く甘い吐息を漏らしながら腰を揺すって快楽を貪っているが、これがとても可愛らしく、いやらしくタキアを誘っていると、多分気付いていない。
「……ルサカ、いい子だね。可愛い。大好きだよ」
再びルサカに覆い被さって、タキアはルサカの眦に唇を押し当てる。
中を甘く刺激していたタキアの指が抜き去られ、ルサカは何の疑いもなく、いつものように、タキアを迎え入れるものだとばかり思っていた。
「ルサカ、ちょっと力抜いてて。……ゆっくりするから」
ちゅっと音を立ててルサカの唇に口付けると、タキアは身体を起こす。
再びタキアがあの、とろみのある液体の瓶を開けて掌に垂らしているのも、ルサカは別におかしいとは思っていなかった。
ぬちっ、と粘った水音が響き、タキアの指で開かれ、ひくひくと快楽を求めて綻んでいた蕾に、何かが押し当てられる。
タキアのじゃない。そうルサカが気付いた時には遅かった。
「タキア、なっ……あ、あっ……!」
竜のあの異形の生殖器とは、完全に異なるものだ。形も、大きさも、質感も違う。いつもと違う、知らない何かに犯される感触に、ルサカの爪先が派手に跳ね上がる。
「あ、あ! やめ……あ、んんぅ!」
ぐぷ、と淫らな音が響いた。ルサカの蕩けた中に沈められたそれは、硬く、違和感があった。竜のそれとは完全に違う、何か。身体の中に収められたその何かに、感じる場所をゆっくりと擦りあげられ、ルサカはたまらずに甘く鳴いてしまう。
「タキ、ア…っ…! それ、あっ……! あぅ、くうっ……!」
ルサカもこれは知っている。あの『竜と過ごす夜の為に』で見た事があった。
人や竜の生殖器を模した玩具があるというのは、この本のおかげで、知っていた。これは間違いなく、それだ。恐らくは、人の性器を模したものだ。
それを何故、タキアが持っているのか。それよりも、タキアはこれを知っていたというのか。
「こんなの、あ、あっ! くぅ、んっ……!」
そんな玩具で感じるとか、恥ずかしい上になんだかプライドが許さない。そんな事を一瞬思ったものの、タキアに口付けられながら、奥深くまで沈められた玩具で揺すり上げられると、何も考えられなくなっていく。
「タキア、やめ、あ、あっ! ……ふああ……っ…!」
「えっちだね、ルサカ。……こんな気持ち良さそうに蕩けて」
タキアの唇がルサカの唇に触れる。そんな優しい仕草を見せながら、タキアは容赦がない。ルサカの中に沈めた玩具で、よく知るルサカの最も感じるところをじっくりと擦りあげる。
いつもと違う感触が、かえって強い刺激になっている。タキアしか受け入れた事がなかったルサカには、少し刺激が強すぎた。震える咽喉をのけ反らせ、背をたわませて、淫らに甘く切なげに、鳴き続ける。
「くは、ふ、あ……! も、だめだ、こんなの、あっ! あぅ、んんぅっ……!」
蕩けた声で拒みながら、ルサカも分かっていた。ルサカの身体はこれを喜んで受け入れている。この淫らな玩具に柔らかく蕩けた中を擦りあげられるたびに、爪先まで震えるくらいに感じていると、自分でも分かっていた。
「そんなに締め付けたら、動かせないよ。……ルサカ、気持ち良さそう」
震えるルサカの肩口に甘く歯を立てながら囁くタキアの声は、小さく笑いを含みつつも切なげにルサカの耳に届いた。
誰がそうさせてるんだよ、と言い返したくとも、喘ぐばかりで言葉にならなかった。ルサカは震えながらタキアの背に両手を回して、必死にしがみつく。
あれだけ派手に喘いでおきながら逆ギレするのもなんだ、とは思うが、ルサカだって羞恥でどうしたらいいのか分からない。だから拗ねて膨れるしかない。
「……だってルサカは素直じゃないから、使ってみてもいい?って聞いたら、絶対だめって言うだろうし……」
しゅんとしながらも、何か釈然としないのかタキアも食い下がる。
ルサカは例の絨毯の上で、掴んでいたせいでシワシワになってしまった絹に包まって、タキアに背中を向け転がっていた。
「ルサカもすごく気持ち良さそうだったし、そんなに怒る事ないじゃないか……」
気持ちよかったからこそルサカがいたたまれないんだと、恐らくタキアは思いつかないし、理解できない。たとえルサカが思い切ってそう告げたとしても、気持ちよかったならいいじゃないか! としか絶対思わない。
「……なんでこんなのの使い方を知ってるんだよ。こんなの見た事なんてなかったよ……」
相変わらず顔を背けたまま、ルサカはぼそぼそと文句を言う。それを聞いたタキアは、ルサカからは見えないが心外だ、という顔をしていた。
「ルサカの本で見たから知ってるよ。……ルサカはこういうのに興味があるんだとばかり思ってた」
「興味なんてあるわけな……」
そこまで言いかけて、ルサカは気付いた。
「……なにそれ。ぼくの本て、まさか」
「ルサカのベッドの下にあった。……落として忘れてるのかなと思って、拾っておいたんだけど。あれはもしかして隠してたの?」
やっとルサカは分かった。
昨日の朝、タキアが唐突に交尾したがったていたのは。
ヨルが例の『竜と過ごす夜の為に』を引っ張り出して囓ってたのは。
タキアが朝、ルサカの部屋に地図を取りに行ってなかなか戻ってこなかったのは。
そして奪った積み荷に張り付いてそわそわしていたのは。
ルサカはやっと、ここ数日のもろもろを理解した。
ルサカのベッドの下で忘れられていた『竜と過ごす夜の為に』を読んでいたからか。
ようやく全部が繋がった。タキアは何かの拍子にベッド下の本に気付き、親切心で本を拾って部屋のどこかに置いて、それをヨルがおもちゃにして遊んでいたというわけか。
ますますルサカはいたたまれない。何を言い返したらいいのかも分からない。こっそりあんな本を読んでいたなんて、何をどう言い訳しても、興味があったんだと絶対思われる。
「ルサカは色々勉強してたんだなって思って。じゃあ、僕もルサカに喜んで貰えるようにって考えてたんだけど。……なんでそんなに拗ねてるのか分からないよ。……もっと違う事したかった?」
あまりのいたたまれなさに頭まで絹に潜り込んで丸まったルサカにのし掛かって、タキアはぎゅっと抱き締める。
「ちょうど昨日奪ったものの中に、ルサカの本で見たようなのがたくさんあったから。今までも奪った積み荷にたまに入ってた事あったけど、昨日までは全く用途が分からなかったから、みんなブレスで燃やしてたな。……ルサカも興味あるみたいだったし、ちょっと試してみたかっただけなのに、そんなに怒るなんて思わなかった。……ルサカ、機嫌直してよ。……今度は一緒に選ぼうか。ルサカが気に入ったので、しよう」
そんな事を囁きながら、タキアはルサカのココア色の髪に何度も口付ける。
いつもの事だが、タキアは本当に大らかで、無邪気で、子供っぽい。
ルサカを辱めようとか、ルサカに羞恥を感じさせて楽しみたいとか、そんな邪な気持ちでなく純粋に、ルサカが気持ちいいように、一緒に楽しめるように、そう思ってルサカを大切にしてくれているのは、ルサカも分かっている。
分っているがこんなの恥ずかしすぎてどうしたらいいのか、ルサカだって分からない。
幾らタキアとえっちな事をしまくっていても、羞恥心がなくなっているわけではない。予想外の出来事に、ルサカは激しく動揺し混乱していた。
あのえっちな指南書を見られて、そういうのに興味あると思われて、間違いなく『ルサカはえっちだな』とタキアに思われている。興味が全くないわけではないし、今更えっちじゃない! なんて白々しく否定しようとも思わないが、だからといってそんなの素直に認められるはずがなかった。
タキアはルサカが大好きだからこそ、そのえっちなルサカが楽しめるように、ふたりで気持ちよく夜を過ごせるように、一緒に選ぼう、と言っているわけだが、こんなのルサカの羞恥心では耐えられるはずがなかった。
おとなげなくタキアのせいにして逆ギレるか、羞恥に耐えながら一緒にえっちの楽しみ方を考えるか、今ここでタキアを突き飛ばして逃げ出すか。
竜にも羞恥心があればいいのに!
タキアにしっかり抱きかかえられて逃げ出す事も出来ずに、ルサカはぐるぐる考え続ける。