ノイマール王国のサーコートは、ロングコートに似ている。
正礼装、準礼装、略礼装、平服で、丈や装飾や型は若干変わるが、一貫して、上半身は長袖、ぴたりと身体に沿ったラインで作られ、膝下まである裾はふわりと広がっている。
今日、セニが着ているサーコートは、正礼装用の、最も着丈が長いものだ。
ウエストから裾まで、柔らかに広がるその裾は、歩くたびに優美に翻った。
今日、セニは十五歳になった。
今日から正式にノイマール王国に仕える。
先ほど騎士叙任式が行われたが、セニが騎士の誓いを立てた相手は、ルーヴではない。
ノイマールの王、ベルランだ。
王国に仕えるに当たって、王に誓いを立てる。それは当然と言えば当然なのだが、ルーヴは機嫌が悪い。
今日の騎士叙任式のためのこの正礼装をベルラン王が贈った事もあり、更に機嫌が悪い。
ベルラン王に謁見するのは、既に三回目で、初対面ではなかった。
ルーヴはベルラン王によく似ている。それをルーヴに伝えると機嫌が悪くなるので、セニは黙って胸にしまっている。
ベルラン王はどんな気持ちでセニに謁見を許したのか、それを時々考える事がある。
結局それはベルラン王が口にしなければ分からない事だが、レトナ夫妻の養子であり、エシル王国の最後の王子かもしれないセニを、どんな気持ちで見ているのか。
養父よりも年下のはずのベルラン王は、ひどく疲れ、老いて、孤独に見えた。
セニに対する態度は他の臣下に対するのと何一つ変わらない。まるで何事もなかったかのように。
それはセニの出自から目を背けているだけのようにみえた。
無事に騎士叙任式を終えて、セニは控えの間の椅子に座り込む。
控えていた侍女が用意してくれたお茶をゆっくり飲み干し、サーコートの中に着ていた詰め襟を緩め、一息つく。
一息ついた瞬間に、控えの間の扉が乱暴に開かれた。
来ると思っていたので、セニも驚かない。黙って椅子から立ち上がり、片膝を床に付き、迎える。
「……お前達、下がれ。暫くこの部屋には近寄るな」
ルーヴは人払いを命じると、セニの腕を掴んで立ち上がらせる。
そのままセニの純白のサーコートの合わせを乱暴に開く。
千切れて弾き飛んだ白金に真珠をあしらった豪奢なボタンは、床に落ち、乾いた音を立てて転がった。
「脱げ。俺が贈ったもの以外、全てだ」
ベルラン王が関ると、途端に暴君になる。
素直にセニはサーコートを脱ぎ、クロップドパンツを脱ぎ、ブーツを脱ぎ、靴下を脱ぎ、下着を脱ぎ、絹の詰め襟のシャツを脱ぎ、手袋を外す。
要は全てだ。
ルーヴは全裸のセニを長椅子に引き倒し、覆いかぶさる。
子供と一緒だ。
少々呆れながら、圧し掛かるルーヴを押しのけようとするが、まあ、無駄な抵抗だ。
明るい午後の日差しの下で、膝裏を捕まれ、大きく開かされる。
足掻いても軽くルーヴに押さえ込まれ、大した抵抗は出来ない。
開かされ、足の付け根の柔らかな皮膚にいきなり噛み付かれて、思わずセニは短い悲鳴をあげたが、ルーヴは一向に頓着しない。
そのまま、その柔らかな足の付け根の奥、秘められた蕾に手を伸ばす。
「……やめっ…!」
止めようとルーヴの手を掴むが、これも全く抵抗になっていない。
遠慮なく人差し指を押し込まれて、思わず吐息が零れ落ちた。
指を押し込んだだけで、くちゅっ、と濡れた音が響く。
ルーヴの指先が軽く掻いただけで、そこからどろり、と白く濁った体液が溢れ、零れ落ちる。
「あ、あっ…!」
ふるっと身震いして、声を洩らしてしまう。慌ててセニは唇を噛んだ。
構わず、ルーヴは指を無遠慮に突き動かす。
柔らかなセニの中の襞を撫で、掻くように指を動かすたびに、濡れた音を立てて溢れた白い体液が、ぽたぽたと伝い落ちた。
「も、ルーヴ……やめ…」
声は蕩け始めている。ルーヴの手を止めようと掴んでいた指は添えるだけになり、微かに震えている。
「……今朝はもっと素直だったのにな」
素直だったわけじゃない。抵抗しても無駄だっただけだ。
今朝も着替えている最中に押さえ込まれ、サーコートを捲り上げられてクロップドパンツごと下着を引き下ろされ、半ば無理矢理犯されていた。
とにかくルーヴはこの騎士叙任式が気に入らないのだ。
気に入らなくとも、ぼくのせいじゃない。そんな事を考えながら、セニは今朝の事を思い出す。
「後ろからなんて、動物みたいでイヤだ!」
テーブルにうつぶせに押し付けられて、セニはじたばたともがいていた。
「……動物。……何も知らないと思っていたが、見た事があったのか」
乱暴に潤まされ開かされたそこに、怒張し、熱を持ち反り返ったルーヴのそれが擦りつけられる。
その昂ぶった感触に、思わずセニは小さく喘いでしまう。
「…も…っ……。ね…猫…。……いじめられてると、思って……」
容赦なく、硬く膨れあがったそれが押し込まれた。
先端を押し込まれただけで、セニの背中が派手に跳ねる。
「あ、あっ……!くぅっ…!」
あまりの大きさと硬さに、思わず高い声が漏れた。
「……はっ…そう、だな……」
未成熟な身体の強烈な締め付けと融けそうな熱さに、ルーヴも思わず吐息を洩らす。
セニのその細い腰を片手で押さえつけて、根元まで一息に飲み込ませる。
「く、あっ…ああっ…!」
奥を抉られて、殺しきれなかった甘い声が零れ落ちた。
そのまま遠慮なく揺さぶられる。いつもと違うところを激しく突き上げられる感覚に、堪えきれない甘い声が溢れ、零れ落ちた。
「は、あっ…あ、ああっ、んぅ…くぅ、んっ…」
堪らずにセニは自分の指を噛んで、甘く蕩けた声で、啼く。
「……は…っ…確かに、泣き声、だな…っ…」
乱暴に突き上げられるセニの耳に、ルーヴの小さな笑い声が響いた。
ルーヴにこんな事されなかったら、今でもあの猫はいじめられていたと思っていただろうな。
セニは濡れた音を聞きながら、唇を噛む。
指は二本に増やされ、粘った水音を響かせながら、ゆっくりと出し入れを繰り返す。
そのたびに、今朝ルーヴが残した体液が溢れる。
これは焦らしているんだ。
ねだるまで、こうしているつもりだ。
セニは羞恥に身を竦めながら、焦れて腰を揺すってしまいたくなる衝動を押さえ込む。
今朝だってそうだ。
唇を噛んでも、どうしても吐息が漏れてしまう。セニは空いた片手で、口を押さえる。
今朝も、わざわざああして犯したのは、このサーコートのせいだ。
騎士叙任式で身に付ける衣装一式と剣は、王から下賜されたものに限られる。
ルーヴはそれが面白くない。
だから、朝、わざわざセニの着替え中を襲って、無理矢理犯した。
王の前で誓いを立てる時、セニの身体の中に、この淫らなしるしがあるように。
「……何を考えている」
緩慢に出し入れしていただけだった指が、セニの一番感じるところに触れた。
「あ、あっ…!くぅっ!」
思わず声を洩らす。そこは本当に弱い。そこを擦られたら、セニはいつでもルーヴの言う事をきかされてしまう。
ルーヴの指先は、その感じるところを柔らかく撫でる。
下腹が蕩けそうなくらいに、その撫でる指先がじれったく、甘く感じられる。
セニの唇は震え、途切れ途切れに切なげに乱れた息を洩らさずにいられない。
「……後ろだけでいきそうだな」
セニのそれは触れられてもいないのに、今にも登り詰めそうに、硬く張り詰めて脈打っている。
「……ルーヴ…ッ……!」
堪らずに、ルーヴの手を掴んでいた指で爪を立てる。
含み笑いが聞こえた。
緩く焦らしていた指が、ぐっと押し付けられる。淫らに絡む襞を強く擦りあげられ、堪らずにセニは高く甘い悲鳴をあげた。
「そう拗ねるな」
帰りの馬車の中で、セニは押し黙って口を利かない。
結局、昨日城に上がった時に着てきた平服のサーコートを着ている。
「……拗ねてるんじゃなくて、怒ってるんだよ」
自分の父王の居城で、しかも控えの間で、叙任式の前にも後にも性交を強いるとか、本当にこの王子は暴君だ。やりたい放題だ。モラルも羞恥心もない。
おまけに、あの純白のサーコートの弾け飛んだボタンが見つからない。
「ルーヴが乱暴するから、ボタンをなくしたじゃないか」
「もうあのサーコートは着るな。新しいものを贈る」
「そうもいかない。あれは王に賜ったものだよ。……正礼装が必要な時に着ていなかったら、忠誠を疑われる」
あれだけマイペースだったセニも、この一年ほどの間にアレクシスに厳しく躾けられて、それなりに空気を読むようになった。
さすがに王からの賜り物を着ないわけにいかない。
「どうせ親父もお前が忠誠を誓ったのは俺だと分かっている。着なくても問題ない」
本当に心底気に入らないんだ。
セニも呆れていた。なんておとなげないんだ。
「……なんでそんなに無茶ばかりなの。……駄々っ子みたいじゃないか」
セニを抱いて少し回復していた機嫌は、また悪い方へ傾く。
ルーヴは窓の外に視線を向けて、むっつりと黙り込む。
暫く黙り込んで馬車に揺られていると、低い声でぼそっとルーヴが呟く。
「……あの色が気に入らん。あれじゃまるで……」
「……まるで…? ……何?」
セニに聞き返されると、また不機嫌に黙り込む。
結局、ルーヴはセニをアレクシスの本宅まで送り届けて帰ったが、機嫌を悪くしたままで、一言も喋らなかった。
警備の都合と教育の関係で、セニはあれからずっとアレクシスの本宅に住み着いている。
エシルの王子かもしれない、という疑惑がなくなるまで、拉致される可能性もなくならないのだ。
「……なんだ、王から賜ったサーコートはどうした」
「アレクシスさん……もう帰ってたの」
騎士叙任式にはアレクシスも出席していた。
セニは準備の為に昨日から泊まり込んでいたが、アレクシスは今朝家を出て王城で落ち合った。
「当たり前だ。……ルーヴ様にも困ったものだな」
さすがに気付かれている。セニは羞恥のあまり、言葉に詰まる。
「まさかもう汚したのか」
「……ルーヴが怒って着させてくれない」
アレクシスはやれやれ、と大げさにため息をつく。
「……似合っていたのにな」
アレクシスがそんな事を言うのは珍しい。
口には出さないが、堅物な彼が唯一持っている柔らかめな趣味は、実は『お洒落』だ。
全くもって無頓着なセニの衣類を、たまりかねてアレクシスが選んでいるくらい、服飾には並々ならぬ拘りがある。
その着道楽を恥ずかしいと思っているのか、服飾の話題は滅多な事では口に出ないが、そのアレクシスが褒めるのだ。相当似合っていたと思われる。
「白に銀と真珠など、婚礼の衣装のようだが悪くなかった。誰の趣味かわからぬが、お前によく似合ういい色合いだった」
ああ、だからか。
やっとセニは納得する。
ルーヴは本当に子供っぽい。大人げない。
大きな子供だ。
いい意味でも悪い意味でも。
「……そういえば、大昔の騎士叙任式では、王に殴られたそうだ。識字率が低かったため、記録しても読める者が少ない。この日を騎士本人が忘れないよう、痛みで記憶するために、殴る。……野蛮な話だな」
「…………」
セニは思わず無言になる。
そういうことか。
確かに忘れない。こんなに犯されていたら。