セニはうららかな春の日差しが差し込むベッドの上に寝転がって、市場で買って来た早生の苺を齧る。
ルーヴは苺を齧るセニを抱き寄せて、時折、軽く悪戯するように触れている。
久し振りにルーヴは休暇を過ごしにルシルの別荘に滞在していた。
セニもアレクシスと共に、東のマデリア国境側の警戒の為にブランドール公爵家の領主館に滞在していたが、アレクシスの良く分からないお使いで、ルシルの別荘に寄越されていた。
アレクシスは常にルーヴが最優先事項なのだ。
ルーヴの心が癒やされ安らぐなら、何を犠牲にしてもいいと思っている節がある。
それはセニもよくわかっている。ルーヴが別荘に滞在する間は、ここにいろという事だ。
休暇を貰ったと思えばいいか、と緩く考えている。
明るい陽の下でこんな事をするのは、ものすごく背徳感があるな、とかセニはぼんやり考えながら、胸元に淫らに触れるルーヴの指先を見ている。
気まぐれな指先が、胸元の赤い突起を摘み、柔らかく撫でる。
あの時も、こうして朝も昼も夜も、抱き合っていた。
随分昔の事のようにも思えるし、まだ最近の事のようにも思えて、不思議な気持ちになっている。
その撫でていた小さな突起に、ルーヴが唇を寄せる。軽く舐め、セニに見せ付けるように、唇に挟む。
「……は……っ…」
セニの唇から、詰めた息が零れ落ちた。
更に甘い声を引き出そうと、甘く吸い付き、舐る。
背筋を何かが這い上がる感覚に、絡めていたセニの足が小さく跳ねた。
ここで初めてルーヴと抱き合った時は、くすぐったくて仕方なかったのに、今では蕩けそうに気持ちよく思えるなんて、不思議だ、とセニは内心で思う。
「……ルーヴ……そんなにしたら、……苺が食べられない」
軽く抗議をすると、ルーヴは顔を上げて、セニが枕元に投げ出していた苺の入った小皿に手を伸ばす。
「気にせず食べていればいい」
苺を一粒摘みあげ、薄く開かれたセニの唇に含ませると、そのまま唇を寄せる。セニの唇に苺を押し込むように舌先を忍びこませると、セニの細い咽喉から、切なげな吐息が零れ落ちた。
唇から伝い落ちた苺の果汁を舐め取りながら、その細い咽喉を辿り、シーツを剥ぎ取ると、セニは微かに抵抗を見せる。
「さっきもしたじゃないか。……堕落しすぎだよ」
「誰が堕落させてるんだ?」
「……ぼくのせいじゃない」
そのまま片手で脇腹のあたりを掴まれて、ルーヴの身体の下に引き込まれる。
セニは笑って両手を伸ばす。
その苺の果汁で紅く染まった指先を捕らえ、ルーヴは唇を寄せた。
指先を軽く舐めあげ、そのまま掌まで舌先を這わせる。
掌の窪みの辺りを軽く吸い上げ、舌先で突くと、セニの震える唇から、ため息のような吐息が零れた。
「やめ、あ、あっ……!」
セニはここがなぜか弱い。ここを丁寧に愛撫されると、あっという間に唇を震わせ、甘い吐息が零れはじめる。
それが恥ずかしいセニは、羞恥のあまりますます感じ入ってしまう。
それが可愛く思えて、ルーヴはついそこを苛めてしまう。
それだけでセニが昂ぶりはじめているのが分かる。触れているルーヴの腹の辺りに、熱くなり始めたセニのそれが触れる。
「……ルーヴ、もう…っ…」
ルーヴの手がそれに触れ、きゅっと締め上げる。それだけでセニの爪先が跳ね、シーツを掻いた。
腰の辺りに寄っていたシーツを剥ぎ取り、セニの膝裏を取って開かせる。
セニは微かに震えながらシーツに爪を立てているだけで、さして抵抗を見せなかった。
今朝から既に幾度かルーヴを迎え入れたそこは、もう綻んで、薄くルーヴの残した体液を滴らせている。
そのままセニの細い腰を掴んで一息に突き入れると、セニの皮膚の薄い背中がたわむ。
「……はっ……」
ルーヴは詰めていた息を吐いて、セニの蕩けるような熱を楽しむように、緩く揺らす。
「……あ、あっ…! あ、も、ルーヴ…っ…!」
軽く抉られただけでセニはもう達してしまいそうに震えている。
薄く開かれて切なげな吐息を紡ぐその唇に唇を寄せ、深く押し入れると、掴まれていたセニの膝が大きく跳ねた。
ルーヴは必ず、荒い息のまま、セニの額や生え際やこめかみや、眦や唇の端に口付けを繰り返す。
セニの息が整うまで、それは丁寧に、優しく、時折は淫らに、啄ばむ。
その仕草があまりに心地よくて、セニはすぐに眠りに落ちてしまう事がよくあった。
今も朝からの疲れでうとうとしていたが、何かを思いついたのか、セニはぱっちりと目を開けた。
「……ルーヴ。……怒っていないの?あの時の事」
唐突なセニの質問に、ルーヴは甘く噛んでいたセニの唇から唇を引き離す。
「何の事だ?」
「……あの日の事だよ。ぼくが勝手にノイシュと取り引きしようとした事」
大抵、セニのこういう質問は思いついた時だ。後先をあまり考えないで、無邪気に尋ねる。
突飛な性格にはルーヴももう慣れた。
「ああ、あれか」
大した事でもない、と言いたげな表情だ。
「お前が決めた事なら仕方がないだろう。……お前が俺の言う事を素直に聞くようなら、俺も苦労がないな」
その通りではある。
セニも心当たりがあるので、少しだけ気まずそうに、ごまかすように、放り出していた苺の小皿に手を伸ばす。
「お前が決めた事なら実行すればいい。俺も気に入らなければお前の邪魔をする」
以前に、アレクシスが『ルーヴ様はお前を自由に奔放に育てるおつもりらしい』と言っていた事をセニは思い出した。
あれは、好きにやればいい、ただし介入はする、という意味でもあったのか、と納得する。
あまりにもルーヴらしくて、セニは苺を齧りながら笑ってしまった。
セニが声をあげて笑うのは珍しい。ルーヴも楽しげにセニの苺で濡れた唇に指先で触れる。
そのルーヴの手を取って、セニは指先に口付ける。
「あなたが好きだよ。……あなたがいてくれて、良かった」
ルーヴはセニの額に額を当てて、小さく笑う。