この古城の城は、なにやらタキアがダーダネルス百貨店の珊瑚に売りつけられた謎の壷のおかげで、真冬でも暖かい。
古城のあちこちに置かれているこの謎の壷はフタがしてあって、触れるとアツアツまではいかないけれど、かなりの熱気を放っている。
中身に関してはタキアが管理しているし、『ルサカは見ない方がいいんじゃないかな』と言われてから、中を見ようという気はなくなった。
なんとなく嫌な予感がするので見ようと思えない。
古城の巣がある場所は標高が高い山の天辺なので、この謎の壷にはまだ暫く働いてもらわなければならないが、下界が春になる、という事は、タキアのあの季節がやってくるという事だ。
ロマンチックな言い方をすれば、恋の季節。
はっきり言ってしまえば、発情期。
前回の秋の繁殖期の直前にこの古城の巣に連れてこられて、ルサカは何の心の準備も出来ていない完全に非合意な状態で交尾を強いられたけれど、今回は完全に合意だし心の準備も出来るし、前もって色々な準備も出来る。
まず食糧の確保とリネン類と着替えの準備。
とにかく四六時中交尾する事になるので、食料はルサカにとっては特に重要だった。
前回もそうだったが、激しく消耗するので、食べないと確実に衰弱する。
秋の繁殖期と同じ勢いでタキアが交尾したがるようなら、家事もまわらなくなる。
そうなると不足するリネン類と着替えのも、繁殖期間の一週間から二週間分くらいは用意しておきたい。
タキアの繁殖期が終わった後にルサカが元気に動けるかというと、無理なのは間違いない。
なので、余裕を持っておきたい。
いつぐらいに繁殖期が来るのかタキアに尋ねたところ『花がたくさん咲く時期』と、非常に漠然とした答えが返ってきた。
多分本人も、正確にはわからないと思われる。
いつ来ても困らないように、下準備だけはしておかなければならない。
という訳で、ルサカはリネン庫と厨房とを行ったり来たりと、とても忙しかった。
タキアも暫く休業していた巣作りのための財宝集めを再開して出歩くようになったし、古城の巣はいつもの日常に戻りつつあった。
あとは、繁殖期までルサカの体力を温存出来れば問題ない。
ルサカは竜の番人になるには少々、幼すぎた。
身体も小さければ、体力も大人ほどはない。
繁殖期の竜の激しい交尾に耐えられるほど体力も耐久力もないので、タキアに頻度を自重して貰うのと、しっかり食べて消耗を減らす事と、繁殖期まで体力を温存しておく事が大事だ。
要するに、繁殖期前は交尾を控えておきましょう、という事なのだけれど、それが正直難しい。
実際、今、帰ってきたばかりのタキアに抱きつかれて、リネン庫のアイロン用テーブルの上に引き倒されているけれど、正直ルサカは拒む気になれない。
服を脱がせるのももどかしいのか、ルサカはシャツを着たまま胸元までたくしあげられて、下腹の紅い花を晒され、脱がせかけの下着とズボンは足首に引っかかったままだった。
「……もうだめだ、我慢できない。……ルサカ、いい?」
ルサカの下腹に押し付けられたタキアのその異形の生殖器は、熱く脈打って、体液を溢れさせている。
タキアが激しく興奮しているのは、声だけでも分かる。もう吐息は熱く荒くなっているし、微かに震えを含んでいた。
ルサカは薄く目を開けて、眦を紅く染めたまま、小さく頷く。
タキアを迎え入れるために軽く足を広げると、タキアはもどかしげに覆いかぶさって、指先で探り当てたルサカの両足の奥の蕾に押し当て、容赦なく突き入れる。
「あ、ああっ…! タキ、アっ……も、くぅっ…!」
硬く熱く滾ったそれを、奥まで一息に突き入れられて、ルサカは思わず息苦しさに吐息を漏らす。
「ごめん、でも無理……っ…」
我慢出来ない、と言わんばかりに、ルサカの細い腰を掴んで、ゆっくりと突き上げ始める。
「ふ、あっ…あぅ、くぅ、んっ…んんっ…!」
すぐに繋がったそこから、くちっ、と粘った水音が聞こえ始める。
その淫らな音が聞こえ始めると、タキアはルサカの小さな身体を抱え込んで、激しく突き上げ始めた。
「タキア、あっ…! くうっぅ…、あ…っあぁ!」
激しく突き上げられ、ルサカの唇から、熱く融けた声だけが零れ落ちる。
竜の生殖器は、番人に狂おしいほど、快楽を与える。
奥を何度か突き上げられただけで、爪先を跳ね上げてルサカは達した。
その瞬間、ルサカの柔らかく甘く蕩けた内壁にきつく締め上げられて、タキアもルサカの奥深くに、吐精する。
荒い息のまま、覆いかぶさってルサカの唇に口付け、そのまま舌先を誘い出し、甘く噛む。
「ん、んっ……タキア、も…」
だめだよ、と言うルサカの声は、深くなる口付けに消される。
ルサカの中のタキアのそれは、すぐにまた熱を帯び、硬く大きく膨れ上がっていく。
「……もっとだよ、ルサカ……」
唇を寄せて舌先を食んだまま、ゆっくりと再び突き上げ始める。
少し動いただけで淫らな音を立て、繋がったそこから白濁した体液が溢れ、テーブルを汚した。
「ふ、あ……あ、んんっ……」
ゆっくりと焦らすように突き上げられて、ルサカの声は甘く震える。
「……やば…っ…ルサカの中、熱くて蕩けてて、めちゃくちゃ気持ちいい……」
唇が触れそうな距離で淫らに囁かれて、ルサカの丸いなめらかな肩が小さく跳ねる。
「タキア……ん、くぅっ…!」
その跳ねた肩にタキアは唇を押し当ててルサカを抱きかかえると、腰を押し付け、再び深く、激しく突き上げ始める。
「ルサカ、可愛い。……大好きだよ」
その丸い肩に、幾度も口付け、囁く。
繁殖期前からこんなに交尾していたら、身体が持たないし繁殖期にはボロボロになっているのではないか。
リネン庫のテーブルにうつぶせになったまま、ルサカは考える。
タキアはそのうつぶせの、皮膚の薄いルサカの背中に口付けながら、濡れた足や下腹をタオルで拭ってくれている。
タキアは優しい。
ちょっと交尾が急ぎすぎな時もあるけれど、終わった後は疲労のあまり動けないルサカを抱いてキスしたり、こうして濡れた身体を拭ってくれたりと、とても甲斐甲斐しく優しい。
それに、何よりルサカもタキアが好きだし、好きな人との交尾は当然、スキンシップかスポーツか扱いだった以前と比べるべくもなく、もっと気持ちがいい。
だから拒むに拒めない。
けれどあまりこうして快楽に身を任せて耽溺していると、ルサカのような未成熟な番人は衰弱して死んでしまうかもしれない、という真面目に考えないといけない問題がある。
そうこうしているうちに、丁寧に腿の内側を拭いていたタキアは、また指先を滑らせて、タキアの残した体液を滴らせるルサカの蕾に触れようとしている。
「ちょっ……タキア、もう、だめだよ…っ…!」
慌てて身体を起こしてその手を掴み、膝を固く閉じる。
「もっとルサカのえっちな声、聞きたい」
「そんなはっきり、素直に言うな……!」
言われたルサカの方が恥ずかしい。
本当に竜のゆるゆるなモラルは羞恥を覚えないし、感じなさすぎる。
そんな素直に言われると、ルサカの方が恥ずかしいし困る。
「もうだめ。今日はもういやだ。……こんなにしてたら、ぼくが死んじゃうよ……」
言われてようやくタキアも気付いたのか、素直に手をひいて、ルサカを抱きしめる。
「……ごめん。気をつけなきゃいけないんだろうけど、ルサカが可愛いから、我慢するの難しい……」
こんな状態が続いたら、間違いなく繁殖期に死んでしまう。
「気をつけないと、今のでも消耗してるし……繁殖期前にちょっと控えておかないと、ぼくも怖い……」
タキアはルサカを抱いたまま、うんうん頷いている。
「気をつける。ごめん、ルサカ。……ちゃんと控えるから」
ルサカの頬に軽く口付けて、今度は悪戯せずにちゃんと丁寧に拭って、ルサカの乱れた服を整える。
「もうちょっとルサカが育つの待てば良かった。……すごく後悔してる。よその番人が大人ばかりな理由がよくわかったよ……」
服をきちんと着せてから、ルサカを抱いて、居間のいつもの寝椅子まで運ぶ。
「ルサカのためにも、もっと大人になるまで待てばよかった。……ごめん、ルサカ。疲れちゃったかな……」
寝椅子にルサカを寝かせて、その額に口付ける。
「……大丈夫だよ。少し休めば平気。……ちょっと数日は交尾するの、止めておこうね」
不安はある。
大人の番人でも繁殖期の間中、交尾し続けるのは、きっとかなりの負担があるはずだ。
だから竜は複数の番人を持つのだろう。
このまま繁殖期のたびにタキアに我慢させるのも、竜の本能を考えたらひどい無理を強いているのではないだろうか。
タキアに、他にも番人を持つ事を勧めた方がいいのかもしれない。
ぼんやりとルサカは考える。
けれど、他の誰かにタキアの心を奪われたら、と考えると、無性に悲しくなる。
結局、自分の我が侭とエゴで、タキアの竜の本能を無理に押さえ込ませているのだ。
そう気付くと、やるせない気持ちになった。
そんな風に色々思い悩むルサカに気付いていないタキアは、変わらずに優しくキスしたり、髪を撫でたりしている。
「……ああ。そうだ、忘れていた」
唐突に何か思い出したようだった。
「幼馴染みというか、昔なじみの竜がいるんだ。セツっていうんだけど、今度独立して巣を持ったって連絡があって」
竜は数が少ないながらも、それなりに付き合いがある、と以前タキアが言っていた事を思い出す。
「お祝いに行ってくるけど、ちょっと遠い。……生まれ故郷が遥か西の、砂漠のある国だって言ったと思うけど、その更に西なんだ」
空を飛べる竜が遠い、と言うくらいだから、人間からしたらかなりの距離だろう。
ルサカは漠然とその遠い国の距離を考えながら静かに頷く。
「……往復で一週間くらいはかかるかな……。だいたい一週間から十日くらい。……ひとりで留守番出来る?」
なんだか子供扱いされているのか、と一瞬ルサカは思ったが、この『ひとりで留守番出来るか』は、タキアの兄姉の来訪を警戒しての発言かもしれないとも考え直した。
「大丈夫だよ。ヨルもいるし。……ゆっくり友達に会っておいでよ」
「ルサカも連れて行けたらいいんだけど……セツにルサカを会わせたくない」
ぎゅっとタキアに抱きしめられながら、そもそもセツというのが雄なのか雌なのかすら聞いてない、とルサカは思った。
雌の竜だったら、タキアの初めての相手かもしれない。気にならない、と言ったら嘘になる。
「セツも綺麗なものが大好きだし、好みも結構近いから、ルサカを見たら欲しがるかもしれない。……姉さんや兄さんだけでも大変なのに、セツまでとか本当に勘弁して欲しい。だから会わせたくない。……自慢もしたいけど!」
竜の男心も複雑だ。
そしてこの話だけでは、セツが雄なのか雌なのかさっぱり分からなかった。
「そのセツって竜は、雄なの? 雌なの?」
尋ねてみてから、そういえば竜は全員、両刀だった事を思い出す。
雄だからといって初めての相手ではないとは限らない。
この竜のゆるゆるモラルは、もしかしたらものすごく複雑な関係を作ってるんじゃないだろうか、とルサカは気付き始めた。
「セツは雄だよ。もう随分会ってないけど、元気かなあ」
竜の言う『暫く会ってない』はものすごく長い年月なのではないだろうか。
だとしたら違うかもしれない。
何やら考え込んでいるルサカを見て、タキアは気付いたようだった。
「……ルサカ、気になるの?」
覗き込まれて囁かれる。
図星のあまり、思わずルサカは耳まで赤くなってしまった。
「ち、違う……! 何も考えてないよ!」
タキアはなんだか嬉しそうだ。
「セツは友達だよ。……いつかルサカにも紹介しようね。まずはセツが番人を持って、落ち着いてからかなあ。番人も持たない状態でルサカを会わせたら、面倒な事になりそうだし」
これはやきもちを焼いていると思われたかもしれない、とルサカはますます赤くなる。
実際、やきもちのようなものだ。
赤くなったルサカの唇に軽く口付けて、タキアはまだ嬉しそうに笑っている。
「……出来るだけ早く帰ってくるから。何か、ルサカが見た事もないようなものをお土産に持って帰るから、楽しみにしてるといいよ。……砂棗は、ここじゃ育たないかなあ……」
そんな話をしていると、ヨルがするり、と半開きのドアから部屋に滑り込んできた。
寝椅子の足元に走ってきて、タキアの足元にじゃれつく。
「……そういえば、ヨルは兄さんにエサ貰ってたけど……」
タキアはひょい、とヨルを抱き上げて、鼻面をつき合わせる。
「ヨル、エサを貰っても兄さんや姉さんがルサカに近づいたら、ちゃんと追い払うんだよ。……エサなんかで懐柔されたら、お仕置きするよ」
タキアがいない間の心配事は、それだ。
タキアをからかう意味もあるから、タキアがいないならちょっかいを出される事もなさそうな気もするが、何しろ竜は多情で惚れっぽくて、ゆるゆるモラルだ。
油断は出来ない。
「兄さん姉さんを立ち寄らせないのが一番なんだけど……十日近く巣を空けるとなると、誰かに様子を見てもらわないとやっぱり心配だし……。仕方ないんだけど」
ヨルは本当にぼくを守ってくれるんだろうか、とルサカは少々心配になる。
十日間、ヨルとほうきウサギと、ルサカだけ。
ルサカは右手の小指の指輪を眺める。
いざとなったらこれに頼るしかないかもしれない。