竜の棲み処 異聞録

#05 月明かりの夜に

 着飾るなんて、した事がなかった。
 たまにライアネルとどこかに出かける時に余所行きの服を着る事はあっても、こう、ゴテゴテと着飾るなんて、なかった。
 あの決闘の日にエルーに着せられたのが、人生初の『着飾った』経験だとも言える。
 ましてや、交尾の為に着飾るとか、すごい矛盾じゃないか、とルサカは思う。
 どうせ脱ぐのに、何故あえてこんなゴテゴテ着飾らないとならないのか。
 まさかエルーもそんなつもりで、この、タキアたち兄弟の故郷の民族衣装を置いていったわけではないだろう。
 いや、思えばエルーも竜だった。
 普通に想定内かもしれない。
 そんな事を考えながら、ルサカは衣装箱から、あの砂漠の国の衣装を引っ張り出す。
 紗と絹に金糸銀糸が織り込まれた、エキゾチックで華やかな衣装だ。
 あのクアスとの決闘の日に随分汚したが、綺麗に染み抜きが出来ていた。
 血のしみは冷たい水で洗うに限る。
 上衣、下衣、帯、繻子の靴、金銀の細く繊細な首飾りや、瑪瑙や翡翠、金細工や銀細工の腕輪、絹の糸と銀の鎖で編まれた細やかな足飾り。
 気が遠くなるくらいに、ゴチャゴチャしている。
 エルーが残した着付け方の説明書を読みながら、ルサカは必死に着付ける。
 タキアがどうしてもこれを、『風呂上りに、着て欲しい』と主張しているが、理由は聞くまでもない。
 風呂上がりイコール夜、だ。
 そんな理由、ルサカだって聞かずとも分かる。
 こんな面倒なものを頑張って着ても、すぐに脱がされるとか。おかしいじゃないか、とルサカは思う。
 なんとかこのややこしい衣装を着て、宝飾品をつけ、自分の部屋を出る。
 思えばこの衣装を着て鏡を見たことが無かった。
 全身が映るような鏡、というと、少し離れた廊下にしかない。タキアの部屋に行くルートにはないし、とても遠回りになる事を考えると面倒になる。
 別に見なくてもいいや、ゴテゴテしている事は見なくても分かる。
 似合っていようがいまいが、タキアが着ろ、と言ったんだし、着ていれば問題ないだろう。ルサカはいい加減にそう決め付ける。
 タキアは順調に回復して、重傷を負った右腕も、まだまだ完治には遠いが、少しなら動くようになった。
 竜の回復力おそるべしだ。
 重いものを持ったりはまだまだ無理だが、ちょっとした日常的な動作程度なら出来る。
 利き手が使えるようになった。だから、着飾って欲しい、という分かりやすい理由。
 確かに『こんなのまた幾らでも着てやるから』とは言った。
 言ったが、予想以上に面倒だし、更にこんな面倒をしてまで頑張って着たのに、すぐ脱がされるとか全く非合理じゃないか。
「……タキア、入るよ」
 軽くノックをする。返事はない。
 もう一度ノックをしても返事がない。
 少しだけドアを開けて中の様子をうかがうと、窓を大きく開け放ち、月明かりが部屋の中を照らしていた。
「……タキア?」
 覗き込むと、タキアは寝台の上で丸くなって眠っていた。
 その丸くなって眠るタキアを、窓から差し込む柔らかな月明かりが照らす。
 寝台に歩み寄っても、タキアは起きる気配がないように思えた。
 ルサカは繻子の靴を脱いで、寝台に這い上がる。
 タキアの寝台から窓の外を見上げると、綺麗に満月を見る事が出来た。
 大きく丸い、白銀の月。
 傍らに丸くなっているタキアを見おろすと、その乳白色の月明かりに照らされた長い睫が、綺麗な影を作っていた。
 その長い睫が震え、すみれ色の瞳が覗く。
「……待ちくたびれたよ、ルサカ」
「この服、着るのが大変なんだよ」
 タキアは笑いながら、寝そべったままルサカを見上げる。
「すごく綺麗だ。……ルサカはやっぱり、綺麗な服を着ていて欲しい」
 暫く月明かりに照らされるルサカを見上げて、それから起き上がる。
 ルサカの纏う紗と絹と、金や銀の細い鎖や宝石が、月の光を弾いて仄かに輝く。
 確かにルサカのこの世ならざる美しさを引き立てていた。
 ルサカにこんな服を着せると、人ならざるものの美しさになるな、とタキアは密かに感心する。
「……脱がすのがもったいない」
 両手でルサカの腰を抱くと、ルサカも小さく口を尖らせる。
「そうだよ。こんな着るのが面倒なのに、すぐ脱ぐとか」
 どんなに着飾って、この世のものでないような、妖しく美しい生き物のように見えても、中身はいつものルサカだ。
 この見た目に、このちょっと素直じゃない、不思議な可愛さの性格は反則だともタキアは思っている。
「じゃあ、出来るだけ脱がさないよう、努力する」
 笑いながら、そのルサカの唇に口付ける。



 綺麗な蔦と花の刺繍を施された帯から、紗を重ねた絹の上衣を引き出し、くつろげる。
 タキアはやっと動くようになった右手をその素肌に這わせて、辿る。
「……ルサカ、砂棗の花の匂いが強くなってるよ。……むせ返りそうなくらい」
 そんな事、言われなくてもルサカも分かっている。
 はだけた胸元の、小さな胸の突起は、触れられる前から張り詰めて硬くなっている。
 軽くタキアの指先が触れただけで、痺れるように感じられた。
「は……あ、んんっ……」
 軽く指先で捏ねられただけで、声がもう上擦り始める。
 そのルサカの反応に気をよくしたのか、タキアは片手で突起を摘み、柔らかく擦りあげながら、もう片方の赤く尖った突起に唇を寄せる。
 舌先だけで柔らかく舐め、それから唇に挟む。唇で甘く食まれて、ルサカの吐息は一瞬で熱を帯びる。
「あぅ……! あ、も、タキア……っ…!」
 思わず名前を呼ぶ。
 胸ばかり丁寧に愛撫されて、気が狂いそうだった。
 赤く尖ったその胸の突起を含み、吸い上げられ、ルサカの裸足の爪先がシーツを掻く。
「も、胸ばっかり、するな……っ…!」
 切れ切れに抗議すると、ちゅっと音を立てて吸い上げてから、唇を離す。
「じゃ、どこ触って欲しいの?」
 最近、タキアは本当に意地悪だ。
 ルサカからいやらしい言葉を引き出そうと、わざと、こんな事を聞くようになった。
 最初の頃こそ、ルサカの羞恥を理解出来なかったくせに、今ではそのルサカの羞恥を楽しめるまでにまで理解してしまった。
 そういうところは理解しないでいいのに、と思いながら、ルサカは震える指で帯を解く。
 下衣を緩め、おずおずと下腹の紅い花を晒す。その花のすぐ下で、絹の下衣に覆われたルサカの性器は硬く張りつめ、熱を持っていた。
「……もうぐしょぐしょ。そんなに濡らしてたら、服が汚れるよ。……ほら、しみになってる」
 濡れた生地越しに、敏感な先端を撫でられて、ルサカの爪先がびくん、と跳ねた。
 ルサカの足が震えるたびに、足首を飾る絹の糸と銀の鎖で編まれた足飾りが、しゃらしゃらと音を立てる。
 タキアの指で、柔らかな絹に包まれたその敏感な場所を擦られるたびに、じわり、と絹を濡らしていく。
「やめ、あ、あ……!」
 咽喉を仰け反らせてその焦れったい刺激に耐える。
「服越しなのに、もうこんな。……糸引いてるよ、ルサカ。……ほら」
 丁寧に淫らに擦っていた指先を軽く離すと、粘った体液が糸を引く。そんなものを見せ付けられて、ルサカの吐息はますます甘く乱れていく。
 布越しの刺激に、ルサカは焦れる。焦れているのに気付きながら、タキアはその絹に包まれ濡れたそこだけを撫で、擦る。
「……タキア、もう……っ」
 耐え切れずに、焦れてねだる。ルサカの汗の滲み始めた額に口付け、タキアは小さく笑う。
 下衣をはだけさせて、脈打ちながらもっと強い刺激を求めるルサカの性器を引き出すと、唇を寄せる。
 見おろすルサカに見せ付けるように、ぺろり、と舐め、あのしなやかで綺麗な指を絡め、きゅっと締め上げ、擦りあげると、ルサカの背中がびくん、と震えた。
「あ、あ……っ…タキア、ね、もっと、して、はや、く」
 ルサカの興奮がよくわかる。窓を開け放っているのに部屋の中はむせ返りそうなくらいに、砂棗の花の匂いが漂っていた。
 その蕩けそうなルサカの、たらたらと蜜を溢れさせる性器を舌に擦り付けるように咥える。
 見せ付けるように咥えられて、ルサカは思わず息を殺す。
「……ルサカ、まだいっちゃだめだよ。……もうちょっと、ね……」
 ゆっくりと唇から引き抜き、そう言い聞かせると、再び唇を寄せ、咥える。
 だめ、なんて言われたのは初めてかもしれない。ルサカは軽く頷くが、我慢なんて出来そうになかった。
 尽くされるより尽くすのが好きなタキアは、とても丁寧に舐める。
 ルサカがどこを責められると感じるのか、よく知っている。そこを丁寧に愛撫し、ルサカの甘い声を引き出そうとする。
 そういう時のタキアの舌は、狂おしいくらいに、熱く、甘く、意地悪だった。
「あ…ぁあ! あ…、ん…ぅ……っ! も、がまん、で、きな……っ…!」
 ルサカは耐え切れずに身体を捩ってベッドに身を投げ出す。それでもタキアは執拗に責める。
「タキ、ア、く、るし……っ…」
 眦に涙を滲ませて訴えると、タキアはゆっくりと唇から、びくびくと快楽を訴え、震える性器を抜き出す。
「だめ。もうちょっと、ルサカの気持ち良さそうな顔、見せてよ。……ね?」
 こんな事をしながら、タキアの声はとても無邪気だ。
 時折こうして、無邪気さゆえの残酷さを見せる。ルサカの懇願を無視して、ルサカの濡れて限界を訴えるそれの根元をきつく握りこみ、片手で下衣を剥ぎ取る。
 ルサカの腰に巻かれていた銀糸と真珠を縫い込んだ紗が、ルサカの足に絡んで、余計に扇情的だった。その震える膝の内側に口付けながら、タキアは絡んだ紗を引く。
「……ルサカ、もっと足、広げてよ。……見せて。見せてくれたら、もっと触ってあげる」
 触ってあげる、の言葉に、すがるようにルサカは震える膝を開く。
 その膝を割って身体を挟むと、タキアは紗の絡んだ足首を掴む。
「もっと。……見えないよ」
 容赦ない。自ら足を開き誘うルサカを見たいタキアは、ルサカの張り詰めた性器を更にきゅっと強く握り込んで、急かす。
「くぅ…っ! あ、もう、タキア、お、ねが、いきた、い……!」
 耐え切れずに言いなりに足を開きながら、ルサカは赤裸々に叫ぶ。
 これ以上ない、というくらいに張り詰めたルサカの性器は、たらたらと体液を滲ませ、諌めるタキアの綺麗でしなやかな指を濡らしていた。
 ルサカは夢中で自分の膝裏を掴んで、胸につくほど引き寄せる。ルサカの両足の奥の、タキアを迎え入れるのに慣れた秘められた蕾が晒される。
「……ルサカ、可愛いね。……もう赤くなってる」
 従順に足を開き誘うルサカに満足したタキアは、諌めていた指を緩め、根元からきゅっと締め付け、擦りあげる。
 あっけなくルサカは身体を震わせながら、声すら漏らさずに、吐精した。
 下腹の紅い花に、その白く濁った雫が飛び散る。
「ふあ……あ……」
 耐え切れないのか、ルサカは右手の指を甘く噛みながら、細く甘い声を漏らす。
 まだ荒い息をつきながら切なげに眉根を寄せて甘く息を漏らすルサカの、赤く染まり始めた両足の奥のその蕾に、タキアは柔らかく口付ける。
「あっ…! あ、待って、タキア、まだ、息が」
「……待てないよ。そんなえっちなルサカ見てたら、我慢なんて出来ない」
 膝裏を掴んで胸につくまで足を広げていたルサカの、その腿の内側を片手で押さえつけながら、タキアは容赦なく、その震える蕾に舌先で触れる。
 ルサカの先走りでそこはもう濡れていた。軽くタキアが舌先を押し込むと、引き込むようにひくひくと収縮する。
「……ん、もう大丈夫かもしれないね……」
 人差し指をゆっくりと押し入れると、そこはすんなりと飲み込んだ。
「……すごいね、ルサカ。ものすごく熱くなってる。……ほら、こんなだよ」
 指の腹で、熱く柔らかな肉の襞を撫でると、押さえつけられているルサカの足が震える。ルサカの足首を飾る足飾りの鎖が、そのたびに鈴の音のように、ちりちりと鳴る。
「あ……あぁ…あー…、んん……ぅ…」
 もう何も考えられないくらいに蕩けているのか、ルサカは快楽のまま、甘く鳴く。
「……もうちょっとえっちで可愛い顔見たかったけど、無理そう」
 もどかしげに熱く硬くなった異形の生殖器を引き出して、赤く充血し、綻んだルサカの蕾に押し当てる。
「ルサカ、いれるよ」
 覆い被さりながらそう囁いて、その膨れ上がり滾った先端を、飲み込ませる。
「あ…ぁ! くぅ…!」
 あまりの大きさに、ルサカの息が一瞬詰まる。
「ルサカ、ごめん……もう無理」
 一息に根元まで押し込むと、びくん、とルサカの背中がしなった。
「……く、あ…! …タキア、も…! …こんな大きいの、しんじゃう…!」
 息苦しげに、呟く。そんな淫らに呟かれたら、理性なんか吹き飛ぶ。
 荒い息をつきながら、根元まで押し込んだ太く硬い竜の生殖器で、ぐりっ、と抉る。
「あ、あう、くぅ……!」
 ルサカの性器は膨れ上がり、タキアのその異形の生殖器がが動くたびに、とろとろと淫らに雫を溢れさせる。
「タキア、だめ、こんな、の、ごりごりして、あ、あっ…!」
 だめ、と言いながら、ルサカの唇は震え、口角からとろり、と透明な雫が零れ落ち、糸を引く。そんな淫らな顔で誘っているのを自覚しているのかいないのか。
 ルサカの蕩けた内壁は、竜の生殖器を貪欲に飲み込み、絡みつく。
 その太く硬い異形の生殖器が出し入れされるたびに、ぬちっ、くちっ、と濡れた粘膜の擦れる淫らな音を響かせる。
「ルサカ……好きだよ。……可愛い。僕のルサカ……」
 覆い被さり、ルサカの唇に甘く吸い付き、舌先を誘う。
 ルサカの甘く乱れた吐息と、竜の生殖器を根元まで咥え込み広げられた蕾から溢れる、淫らな水音が静かな部屋に響く。
 ルサカは寄せられたタキアの唇に甘く噛み付き、しがみつく。
 ルサカの身体が快楽に震えるたびに、ルサカを飾る紗と絹がさらさらと流れ、細く繊細な鎖は鈴のようにしゃらしゃらと鳴る。
「タキア……あ、ああっ…!」
 奥深くを貫かれ、耐え切れずにルサカは咽喉を仰け反らせて達した。
 そのきつい締め付けに、タキアもその熱をルサカの中に吐き出す。
 荒い息をつきながら、タキアはルサカの柔らかな髪に頬を埋め、抱きしめる。
 暫くそのまま抱き合い、軽く唇を啄ばむ。
「……タキア」
 抱いていたタキアの背中を軽く叩いて、顔を上げるように促す。
 タキアのすみれ色の瞳を覗き込みながら、ルサカは少し照れくさそうに笑って、口付ける。
「タキアはやらしすぎる。……でも、好きだよ。……ぼくのタキア。……大好きだよ」
 二人額を合わせて、くすくすと笑う。
 月明かりの夜はまだ始まったばかり。


2016/05月/08 up

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