竜の棲み処 異聞録

#15 レタスサラダの誘惑 後編

 へべれけのタキアはほぼ無抵抗だ。
 ルサカは遠慮なくタキアの服を脱がせにかかる。そういえば、タキアの服を脱がせるなんて、タキアが怪我していて手当をする時くらいではないかと思い当たる。
 ルサカはてきぱきボタンを外してあちこち緩める。
 よくルサカだけ脱がされて、服を着たままのタキアにのし掛かられている。とにかくタキアはそういう時はせっかちだ。ルサカの中に押し入ってから脱ぐなんて事もあるくらいだ。
 情熱的といえば聞こえがいいけれど、もう少し落ち着いて欲しいとはルサカは思う。もう一年以上一緒にいるのに、何故タキアの求愛はますます激しくなっていくのか。
 ルサカが竜の魔法を覚えて、もうルサカの未熟な身体を神経質に気遣う必要も、遠慮も不要となったせいか。無茶をしない限りルサカが衰弱するような事もないせいか。
 本当はこれくらいしたかったのをずっと我慢してくれていた思うと、ルサカもちょっぴり拒みにくい。
 だからといってタキアの無茶や無謀を許すわけじゃないけどね。
 そんな事を考えながら、はだけた絹のシャツから覗く胸元に軽く口付ける。
 タキアがルサカによくそうするように、唇を押し当て、小さな音を立てながら素肌を甘く吸い、下腹を撫でる。
 くすぐったいのか、タキアは身じろぎながら小さな声で何か言っている。
 こんな無抵抗かつ無防備なタキアは初めてではないだろうか。
 だいたいルサカがこんな事をしているとすぐ手を伸ばして、ルサカの胸元を探ったり、腿を撫でたりと邪魔をしてくる。
 邪魔が入らないというのはこれほど楽しくかつやりたい放題できるのか、とルサカはしみじみ実感する。
 皮下にしなやかな筋肉を感じさせる下腹を撫で、そのまま手を滑らせて下着の中に差し入れる。これくらいの刺激では大した事がないのか、触れたそれはいつもの硬さではない。
 そうか、普段はこれくらいなんだな。なんて、色気のない事を考えながら指を絡める。
「んー……ルサカ……」
 なんだかぶつぶつ言いながらタキアがもぞもぞしているか、ルサカは止める気なんか全く無い。絡めた指でやんわりと握り込み、ゆっくりと擦りあげる。
 ほんのり頬を染めたままのタキアの唇から、切なげな吐息が零れ落ちる。時折タキアが洩らすこのなんとも色っぽい吐息は、ルサカの理性に淫らに絡みつく。
「……タキア……」
 小さく囁きながら、ルサカははだけた胸元に口付けを繰り返す。掌に触れているタキアのそれは、素直に快楽を伝えて、硬く熱く張り詰め始めていた。
 うっかり忘れていたが、竜の興奮は番人の高揚も誘う。竜がこんな風になれば、当然、その番人も釣られる。すっかりルサカはそれを失念していた。
 掌にタキアの硬く脈打つそれがある。その熱に引き摺られるように、ルサカの唇は微かに震え、吐息は甘く乱れていく。
 多分、ルサカが番人だから、というだけではない。
 タキアが大好きだから、だ。
 夢うつつのように目を伏せ、荒い息を紡ぐタキアの唇に口付けながら、ルサカは思う。
 そうでなければ、こんなに下腹の紅い花の奥深くが、溶け落ちそうに、燃え落ちそうなくらいに熱く甘く、痺れたりしないはずだ。
 こんなにタキアが欲しいと、身体も心も騒いだりしないはずだ。身体中が沸騰しそうなくらい、熱くならないはずだ。
 ルサカは掌で包んだタキアの昂ぶりを引き出し、唇を寄せる。
 異形ではある。人とはあまりにも違い過ぎる。初めて見た時は、こんなもので犯されたら死んでしまうのでないかとすら思っていたのに、今ではこれもタキアだと思えば、とても愛しく思える。
 指を絡めたまま、先端に甘く吸い付き、タキアがするように、割れ目を舌先でくすぐり、なぞり、時折、音を立てて舐る。
 まあ、正直凶悪な姿では、ある。
 唇を柔らかに滑らせ、辿り、付け根に甘く噛み付く。
 ちょっとこれはすごいな、と思うけれど、今はもう見慣れてしまった。慣れてしまったし、何より、タキアが大好きだ。
 だから、タキアとひとつになる事は、たまらなく幸せで、気持ちのいい事で、嬉しい事なのだとルサカもよく分かっている。



 服を脱ぐのももどかしかった。
 ルサカは着ていたシャツの飾り紐を解きもせず、タキアに無遠慮に跨がる。
 もう恥ずかしいとか、そんな気持ちなんかより、タキアが欲しくて仕方なかった。早く奥深くまで、タキアを迎え入れ、感じたかった。
 ろくに慣らしもしていなかったが、我慢できなかった。ルサカは息を詰めて、指を絡め引き寄せたそれを、自分の両足の奥に導く。
 タキアもそんな風に思っていたから、いつも服を着たままになっていたのかと、ルサカもようやく思い当たった。
 今ならそれがよく分かる。
 もう身体中がタキアが欲しいと急き立てる。
 痛みはある。こんな大きな異形の生殖器を受け入れるのだ。幾ら慣れていても、どうしても最初は圧迫感と、微かな痛みがある。
 けれどそれも、すぐに消え去る。
 竜の生殖器は、番人に狂おしいほどの快楽を与える。
 硬く熱く張り詰めたそれが、まだ閉ざされたルサカの中に沈められる。ゆっくりと腰を沈めながら、ルサカは細い吐息を洩らす。
 身体を侵食するような、蝕まれるような。例えようがない快楽だ。熱く熟れたそれが、まだ緊張したルサカの中を擦りながら奥まで沈められた。
「あ、あ……っ……! ……タキア、あぅっ……!」
 下腹の紅い花の奥が、蕩けそうだった。奥深くを貫かれ、あまりの快楽にルサカは震えが止まらない。息を詰め、耐える。
「ルサカ、も……っ……」
 ほぼ無抵抗だったタキアの手が、ルサカの細い腰を掴んだ。
「や……! あ、も、だめだ、あ、あっ!」
 少し揺すられただけで、ルサカは達してしまいそうだった。身動きもできないくらいに感じていて、胸が苦しくなる。
「ルサカ、そんな締め付けないで、こんなの、は、あっ……!」
 身体の奥深くで、どくん、とタキアのそれが脈打つ。耐えられなかった。ルサカは声もなく、奥深くを穿たれて達した。
 そのルサカの中の激しい収縮に耐えられずに、タキアも張り詰めた熱を吐き出す。
「く、あ、ああっ……! タキア、あ、アッ……!」
 上擦った声でルサカが甘い悲鳴を上げる。完全に、竜を誘う番人の、甘く淫らな声だった。ルサカは震える唇から竜の劣情を誘う甘い啼き声を漏らしながら、繋がったまま、タキアの唇に唇を寄せる。
 まだタキアの唇からは、酒のような匂いがしていた。荒い呼吸を繰り返すタキアの唇を貪るように、ルサカは舌を差し入れる。
「……ん、ルサカ……っ……」
 まだタキアの呂律は回っていない。それでも容赦なく、ルサカはタキアの熱くなった舌先を捕らえ、音を立てて舐る。
「タキア、んんっ……」
 ルサカにしては珍しい、甘えるような声だ。タキアも思わずその甘く淫らな声に誘われて、ルサカの華奢な腰に手を回す。
 唇を引き離し、透明な糸を引きながら、ルサカは小さく笑い、囁く。
「タキア、好きだよ。……大好きだ」
 再びその糸をたぐり寄せるようにタキアの唇に触れ、舌先を追う。
「……は、ルサ……んんっ……」
 あまりのルサカの激しさに、酔っ払ったタキアはされるがままだ。ルサカはまだ繋がったままの腰を、ぐっと押し付ける。
「は、あ、あ……! タキア、あぅ、んんっ……!」
 容赦なく、ルサカは腰を揺すり上げる。ルサカの中のタキアのそれは、その刺激にすぐに再び熱を持ち始める。
「ま、まって、ルサカ、あ、あっ!」
 酔っているタキアは自制がきかない。普段以上に簡単に声を洩らす。そんな切なげなタキアの声を聞かされて、ルサカの身体は余計に熱くなるばかりだ。
 硬く熱くなった異形のそれは、柔らかく蕩け、竜の精液で満たされたルサカの中で、びくびくと脈打つ。タキアが何か言っているが、おかまいなしにルサカは快楽を貪る。
「ふあ、あ、あ、あっ! あ、んん、あっ……!」
 膨れ上がった竜の生殖器で、奥深くを抉り、中をごりごりと擦りあげ、揺すり上げる。酔っているせいか、タキアのそれはいつも以上に熱くて、ルサカは貪欲に快楽を追い求める。
「は、あ……っ…ルサ、やめ、息が、……あ、あっ……!」
 こんな激しくされても、タキアはほぼ無抵抗だ。責められるままに声を上げて、まさに搾り取られている。
 もうすっかり身体の中のタキアがもたらす甘く熱く蕩けるような快楽に、ルサカは夢中だ。聞いちゃいない。容赦なく、文字通り、タキアの身体を貪る。
「あ、あっ……! タキア、あ、あっ……! あう、んんっ!」



 まあ、少しは反省している。
 夕飯の支度をしながら、ルサカは昨日の事を振り返る。
 好きなだけタキアの身体を貪ってルサカは大満足だったが、あのあとタキアは頭痛を訴えて寝込んでいた。
 タキアが怪我以外で伏せるなんて、初めてだ。
 多分、二日酔いのようなものだ。酔っ払っているところをルサカに跨がられてあれだけ好きに貪られて揺さぶられたのも、ちょっぴり原因かもしれない。
 でもこれでおあいこだし、それにたいして揺さぶってないし。前にタキアが酔っ払ったルサカにした仕打ちに比べたら、こんなの大した事ないし。
 ルサカは多少、ごめんなさいとは思うものの完全に開き直っている。普段タキアにされている事を考えれば、同じ事をちょっとやり返しただけだ。これくらい問題ない。
 それに、タキアの気持ちもちょっとだけ、分かった。
 なるほどこういう気持ちで、せっかちに服も着たままのし掛かってくるのか、これは仕方ない。なので、あんまり文句は言わないでおこう。交尾しながら服を脱ぐくらい、許しておこう。
 一応はタキアの気持ちも理解できたし、思えば初めて自分のペースで交尾を楽しめたような気がする。なのでルサカは身勝手ながら寛大な気持ちにはなっていた。
 まだ残っているリーフレタスを籠から引っ張り出してむしり始めたところで、あれからずっとベッドでぐったりしていたタキアが、ようやく起き出して厨房にやってきた。
「よく寝たー。ルサカ、お茶飲みたい。熱いのがいい」
 ルサカが驚くくらい、けろりとしている。もう頭痛はしないのか、いつも通りに元気そうだ。
「もう大丈夫なの? 頭痛は?」
「なんともないよ。……ずっと寝てたからお腹が空いたくらいかな。なにかある?」
「もうすぐご飯できるけど……」
 ルサカはボウルいっぱいのリーフレタスをテーブルに置く。
「……もうこれは止めとくでしょ?」
 少々、意地の悪い笑みを浮かべながらタキアの様子を窺う。
 タキアは指先でその柔らかな葉を軽く摘まみ上げ、口元に運ぶ。
「今日はいいけど、たまには食べたいかな。……おいしいし、なんだか気分よくなるし、それから、ルサカがいいことしてくれるし、ね?」
 やぶ蛇だった。ルサカは思わず耳まで赤くなる。
「ああいうのもたまにはいいなーって。……いつもの恥ずかしがり屋のルサカも可愛くて大好きだけど、あんな積極的でえっちなルサカも大好きだよ。……だからたまには一緒に食べようか」
 本当に嬉しそうに楽しそうに、無邪気にタキアはニコニコしている。その笑顔がまた可愛いものだから、ルサカは二の句が継げない。
 勝てない。
 ルサカは思わず返事に窮す。
 羞恥知らずの竜に勝てるはずがなかったし、無邪気で素直なタキアに勝てるはずもないし、何よりタキアが好きだから、結局負けるような気がする。
 返事に困るなら、タキアのように素直に自分の気持ちを言えるようになれればいいのに。そうはいかないのが人間の羞恥心だ。
 タキアのこの素直さが心底羨ましい。そうルサカは心の底から思う。


2017/07/27 up

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